異世界で臨時診療所を引き継ぎました ~でも、専門外の診療ばかりで、自慢の腕を振るうことが出来ません~

4/18

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 司祭が語る昔話は、五年前に白衣を着た青年が偶然、小屋に現れたところから始まった。  彼はコウジと名乗り、最初は元の世界に戻る方法を探していたが、ちょうどケツェルミューレ公爵領の猫人族に蔓延していた熱病の患者を救う道を選択した。  コウジは、人間を嫌う彼らの目を誤魔化すため、司祭と相談し、マキが今被っている覆面を(こしら)えて、常に着用していた。なお、覆面には両目の所に穴があるので、診察には困らないものの、視界が狭まるので多少の不便さはある。  彼は、この世界で四年半過ごしたが、病に倒れ、帰らぬ人となった。  新たな医師を切望する人々の願いを聞き入れたい司祭は、高名な魔導師から、異世界のゲートを開く魔法石を手に入れた。ただし、多大な魔力を消費するため、魔力の充填に時間がかかり、七日に一回しかゲートが開かない欠点があった。  司祭は、その魔法石を使って異世界に赴き、ケンジという青年医師を連れて来た。  しかし、ケンジは言った。 「うちの診療所は火曜日が定休日。その時だけ、ここに来る。それ以外は、元の世界に帰る」  こうして、週一の診療所が再開されたが、五ヶ月後にケンジが来なくなった。  そこで、司祭は、新たな青年医師マサルを連れてきたが、マサルは二回来ただけでゲートを(くぐ)ることはなかった。  それから二週間の医師不在が続いた後、司祭が連れて来たのは、女医のマキだった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加