異世界で臨時診療所を引き継ぎました ~でも、専門外の診療ばかりで、自慢の腕を振るうことが出来ません~

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「私は、昨日あの診療所に赴任したばかりで、全員の名前を知らず、マサルという人もケンジという人もいるのか、分かりません」 「もういいのです。来なくなった人のことは問いません」  司祭が、来なくなった青年医師の話をする度に落胆しているので、今度会ったら苦情を申し立てて欲しいとか言われたとき用に、マキは予防線を張ったのだが、あっさりと肩透かしを食らった。 「そうですか。だったら、私も来週から来なくてもいいのですね?」 「では、()()()()()()()()()()()のですね?」  冗談で言ったのだが、医療放棄の無責任ぶりにチクッと心臓が痛くなったところへ、司祭の言葉で冷水を浴びせられた気分のマキは、言葉を失った。  ――今朝方、この人と約束した。『患者は見捨てない』と。  ――なのに、軽はずみで言ってしまった無責任な言葉。  診療所へ、いの一番に来て、部屋を間違えて入ったら、突然の耳鳴り。  目の前で、空気中に波紋が生じて、猫の顔をした白い祭服姿の聖職者が現れ、(ひざまず)いて(こうべ)を垂れた。  多くの患者が治療を待っている。だから、助けて欲しい、と。  分からないことは助手が手伝ってくれるから大丈夫、と。  ――でも、その助手は、妖精だったけど。
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