異世界で臨時診療所を引き継ぎました ~でも、専門外の診療ばかりで、自慢の腕を振るうことが出来ません~

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 世界中のどこへ飛ばされてもいい。  赴任先は問わない自信はあった。  世界中の医療現場の写真を見て、活躍している医師への憧れもあった。  そこへ、今回招待されたのは、ファンタジーの世界。  不安要素はたくさんあるけれど、好奇心がくすぐられたのもあって、「患者を診ます」、と聖職者の背中を追って、この異世界にやって来た。  どちらかというと、好奇心が背中を押した気がする。  そうやって、異世界へ足を踏み入れたものの……。 「この患者は、食(あた)り」 「違うわ。寄生虫」 「この症状は違う」 「違わない」  何かと二人の妖精は言い争い、自分の主張を押し通す。  助手なのに、マキの見解に耳を貸さない。  何度、彼女は溜め息を()いたことか。  妖精は名前を持たないので、マキは、緑髪緑眼の少年をパン、銀髪灼眼の少女をベルと名付けた。何かの名前に似ているのは、彼女の好きなお話に登場する人物だから。ついでに、お片付けが得意な小さな二人は、ピコとナノと名付けた。  二人の言い争いは、大抵、ベルの主張にパンが折れて、マキが薬を出す。  薬の瓶はピコとナノが協力して「「よいしょ、よいしょ」」と運んできてマキに渡し、終わると「「お片付け~」」と薬棚へ返していく。  今日は、こんな光景が、ずっと続いていた。  ★★★
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