異世界で臨時診療所を引き継ぎました ~でも、専門外の診療ばかりで、自慢の腕を振るうことが出来ません~

1/18
前へ
/18ページ
次へ
 感染症終息の兆しが見えてきた頃、活気のある居酒屋の個室で、三十代の女医のマキと由美がジョッキを傾けていた。 「マキって、最近お疲れ気味だけど?」 「そう見える?」 「見える」 「そうなんだ」 「自覚ないんだ」 「うん」 「うんって……あんたも医者なんだから、自覚持ちなよ」  由美が空になったジョッキを持ち上げ、通りかかった店員に御代わりを伝える。 「昔からタフなあんたが顔に出ているって事は、相当患者が多いんだね」 「……うん。まあね」 「そんなに泌尿器の患者が来るの?」 「……いや、専門外ばかり」  マグロの刺身に箸を伸ばす由美が、吹き出した。 「どこも同じだね。うちも専門外の感染症ばかり扱っているけど、人手が足りないから駆り出されている。そっちも、足りていないんだ」 「足りては……いるけど」 「使えないのばかりとか?」 「自己主張が多いの」  刺身を頬張る由美が、首を縦に振る。 「ああ、いるよねぇ。出来もしないのに主張するのって」  ――そっちじゃないんだけど。  マキは、由美の目を見て苦笑した。  ★★★
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加