真実への慟哭

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 俯き思案するルリエを見て、アマトはあいつに似てるなと呟いて玉座につき、ため息を漏らし頬杖をつく。  まだアマトには聞きたいことがある、が、力づくで聞き出そうにも口を割らないのはわかっているし、そもそも、剣がない状態では魔法剣も作れない。  そんなルリエの気持ちを察したのか、聖域への許可のついでとして、ある事を気だるそうに語る。 「俺よりも詳しい奴がいる、お前に話した女神消失後のことはそいつに聞け。旅を続ければあっちから接触してくるだろう」 「……わかった」  自分が転生した神なのはわかった。  歌姫の力の元々の在り処となれば、ある意味、自分は歌姫と言えるのかもしれない。分かれた力を身に宿した、最後の歌姫。    気絶し床に寝かせたままのルリを抱きかかえたルリエは、そのまま部屋を後にしようとして、待て、と扉の前でアマトに呼び止められ、舌打ちして振り返るルリエが睨みつけ、予想外の言葉をかけられる。 「ノゾミの事は聞いたか?」  何を言っているのだと、思わず言いかける程にアマトからノゾミの名前が出た事はルリエにとっては予想外だった。  確かに、ノゾミの力はアマトとの契約によるもの。だが、それだけだ。 「彼の何を知っている? お前ごときが、彼について語れるとでも?」  魔王という存在故か、アマトの態度はルリエの癪に触る。過ごして来た時間は誰よりも多いつもりで、これからもそれは変わらない。  そして彼はきっと、自分が神と言っても変わらず、優しく微笑み抱き締めてくれる。自分の、居場所だと。 「ノゾミはこれからも私といてくれる、私が何者だろうと……必ず」  凛然と言い切るルリエのそれを受けて、アマトはクスクスと不敵に笑い彼女の怒りを誘う。が、直後に出た言葉が、その怒りを一瞬で掻き消した。 「残り僅かな時間を永遠と思うか、面白いな……お前は」 「……何を、言っている?」  知らんようだな、としてアマトは玉座を立って一瞬でルリエの前に来ると、耳元に顔を寄せ その事実を囁く。 「ノゾミはもってあと数カ月も生きられない、俺が与えた力を使いすぎたからな」  刹那、ルリエから発せられた絶対零度の息吹が全てを凍らせる。  一瞬で銀世界を作り出すもアマトは健在。やや離れた位置に降り立ち、強く睨むルリエを見つめてほくそ笑む。 「あの男は面白いな。自らの願望よりも他者の為に命すら省みずに剣を取る……献身的、というやつにお前が惹かれるのも無理はないのだろう」  さらにアマトが語ったのは、ノゾミがこれまで虚光(きょこう)紅咲(べにさき)……二つの合成魔法をリオンの時代に幾度も使い、既に限界を迎えつつあった事。  それでも限界を超えずにいたがルリエを助ける為に、自分が死ぬと分かっていて、力を使った事。  嘘だと思いたい、が、思い返せばここ最近のノゾミが哀しそうな眼差しをしてたこと、何やらレイジに薬のようなものを受け取り、訊ねるとただの栄養剤ですと優しく微笑みながら誤魔化してた事。  そして、疲れたといって手合わせしなくなり、呼びかけてもすぐに起きなくなっていた。 「私は……私は……!」  込み上げる思いが歯を食い縛らせ、ルリエは扉を乱暴に蹴破り待合室の方へと早足で進み行く。 ーー 「ノゾミは!?」  待合室の扉を蹴破り開口一番、部屋を見回し軽く息を切らすルリエには仲間達は驚き、やや狼狽気味のユーカが対応する。 「え、えと、外廊下の方に行くと……」 「わかった、ルリを頼む」  やや落ち着いた口調でルリエはルリを預け、再び部屋を飛び出て外廊下は何処かと見回し走り出す。 (私は、どうして……!)  外廊下の漆黒の柱にノゾミは寄りかかり、微かに震える自分の掌を見つめそこにつく、自分の血を握り締める。 (もう、隠せないね)  口元に笑みを浮かべながらノゾミは廊下に佇んで、走って肩で息をするルリエを捉えた。  そして拳を握り締めてルリエが早足で近づき、何も言わずに拳をノゾミの胸に振り下ろしそのまま胸に顔を埋めた。 「どうして……私に言わなかったんだ。どうして、私を頼らないんだ……!」 「ルリエ……」  誰かを守る為に強くなると誓った、自分をいつも護り思う人を守りたいと願った。  ルリエは弱々しく何度もノゾミを叩き、やがて拳をほどき、彼の服を掴み顔を見上げる。  いつもと変わらぬ優しい微笑みが、そこにあった。 「ルリエ、いいんです。俺にとって……」 「私がよくない! 私には、あなたが必要なんだ!」  喉が張り裂けんばかりの声にノゾミは圧倒され、そのまま柱に押し付けられ強く睨みつけながらも、紅い目から涙をこぼすルリエをそっと抱き締める。 「私は、あなたが……あなたが……」  言いたい思いがあるのに、それを形にできない。とても大切で、言わなきゃいけないことなのに。  それがただただ悔しく、自分が歌姫なのか神なのかで戸惑った事すらも、強くなろうと思う事も、ノゾミに思いを伝えられない事に比べれば大した事でないと今更、気付けた。  身体を震わせ俯くルリエの頬にノゾミは手を触れ、静かに顔を上げさせて、優しく、語りかける。 「ルリエ……君の想いは、十分わかっているよ。わかってるから……」  目を見開くルリエは悟れた。  優しく頬を触ってくれる彼の手が微かに震えてること、優しい微笑みと共に、哀しみを秘めた彼の目の奥に本当の願いがある事に。 「どうして……私は、あなたと会ってしまったんだ……私と会わなければ、あなたは生きられたのに……!」  自分が何を言っても彼は戦うだろう、命を削り誰かの為に。何よりも誰よりも、優しい人と知っている。  そんな彼だから惹かれたのも、ずっと共にいてくれたのもわかっている。氷のように冷たい自分を、ずっと、見守り支え導いてくれていたから。  ルリエは自分の思いを言の葉に乗せ、自分が今言える、精一杯の言葉を思うままに、ノゾミに言い放つ。 「あなたが死ぬというなら、私がその前に殺してやる! あなたの身体も心も誰にも渡さない! あなたは……私だけのものだ!」  それだけで、ノゾミにはルリエの想いは十分すぎた。  堰が切れたように声を上げて泣き出す彼女を抱き締めて、静かに目を閉じ、残りの命を、時間を、少しでも捧げようと誓う。  愛する者のために少しでも長く。それを教えてくれた人がそうしたように、自分が今度は、彼女に伝えなければならないから。 next……
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