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勇気を持ち真実を明かすは凛然とする乙女。
自分が再誕した神である事、歌姫とは神の力を割って産まれた存在という事。
ルリエは燭台で明るく照らされる部屋の中で、仲間達に全てを打ち明けた。
「……まだわからないこと事は多々あるが、私が聞いたのは、それだけだ」
腕を組んで佇み、そして凛としルリエはノゾミを傍に目を閉じ、静かに仲間達の反応を待つ。
ここに来る前にノゾミと決めた事がある。だがそれを言う前にまず、ここまで共に来てくれた彼らの思いを聞きたいと考えていた。
目を閉じていても、仲間達の反応は手に取るようにわかる。ユーカは目を見開いてやや下がり、アルトが彼女の肩を掴んで自身の戸惑いと共に支えてやる。
椅子に座るレイジは三角帽を深く被って顔を隠し、同じく座るヒースはこちらから目を逸らさずに胸中に思いを秘め続けながら。
(ノゾミだけじゃない、皆がいたから……私はここまで来れた)
ユーカ、レイジ、アルト、ヒース、それにクーレニアにマリィ、今はいない竜車を牽引するタクワン丸。そして、ノゾミ。
誰か一人でも欠けていてはここまで来れなかった、途中で命を落としていたかもしれない。
返し切れない恩があり、そして、彼らの事を思うとこれから自分が目指そうとするものに、無理強いもできなかった。
「なるほど……確かに歌姫と神って考えれば、歌姫サマとルリの事も説明はつくな。元が同じなら、選定法を使えば両方に反応して当然、か」
最初に口を開いたのはレイジだ。いつものように軽口を叩くように、しかし冷静な言葉。
彼の言うように、自分とルリに歌姫を見極める選定法が反応した理由も明らかになり、だが新たな疑問も浮かぶのも事実。
「そうだとして、どうして委員会はルリを見つけられなかったのですか?」
「封印されていれば、外界と隔絶されるってので発見はできねぇが……見つけてあえて選ばなかった可能性もある」
疑問を口にするアルトに答えたレイジに視線が集まり、どういうことかとアルトが聞くより早く、ルリエが口を開き彼女を驚かせた。
「オルタージ、だな」
その名前が出た事には、レイジもやや目尻を上げて気づいていたのかと漏らし、ルリエも頷きつつ、その理由を答えていく。
「以前奴らの襲撃があり別々となった際、ノゾミが会ったという相手……ほぼ間違いなく、委員会本部長のライアーだからな」
「ってぇと、ノゾミの兄ちゃん殺ろうとしたのが元委員会の職員と、ヒースが捕まえて引き渡した犯罪者ってのも筋が通りそうっすね……最悪、だな」
強襲から別離し単独行動した際、各々が相対した敵の一人の正体、その中にいた歌姫選定委員会本部長ライアーの存在。
本部にかつていたルリエはよく知っている。自慢げに家宝という槍を見せ、自分と手合わせしようとするライアーの事を。
その時もひたすらに強さを求めていたが、唯一ライアーとだけは手合わせしたいとは思わなかった。
何となく、幼い自分に酷い仕打ちをした者達と同じものを感じたから。ドス黒い悪意、利己的な快楽を求める、人の闇。
アルトはただただ首をゆっくり横に振って後ずさりし、先程と変わってユーカに肩を支えられる形となる。
歌姫選定委員会の闇。いや、本当の姿が人類至上主義の新興宗教団体のそれとは、思いたくはない。
「だが、我々の目撃情報だけでは揉み消されるのも容易いだろう……恐らく脅しの一つ二つ用意して黙殺にかかるか、暗殺に来るだろうな。あくまで、委員会とオルタージが一つなら、な」
背もたれに寄りかかりつつヒースが意見を述べ、一度場の空気を冷やす。
まだ委員会とオルタージが同一、ないし協力関係とハッキリした訳ではない。
そしてヒースの言うように、自分達の目撃情報だけでは黙殺される可能性は大いにある。
「ど、どうすればいいんですか……」
「さて、な……外部の人間であるこのヒースはともかく、シノノメ嬢らはそうもいかないだろう」
俯くユーカにヒースは普段と変わらぬ堂々とした態度ながら、その表情に明るさはない。
組織に属するが故に自分達が縛られる可能性がある、我が道を通したくても何かを犠牲にする可能性もある。
不安を浮かべるユーカらを静かに見つめながら、小さく息を吐いてルリエはある事を一行に告げた。
「今この瞬間をもって、全員を護衛の任務から解く」
その言葉は凛としながらも、ルリエの口から出るとは思わなかったもの。ノゾミ以外がやや驚く中、ルリエはさらに言葉を紡ぐ。
「私は自分の為にも旅を続けるが、皆について来いとまでは言わない。今日のところはここに泊まれるようにと、これから話をつけにいってくる……ゆっくり休みながら、考えてほしい」
そう言ってルリエは訊ねようとするアルトの言葉を以上だ、の言葉をもって遮り、そのまま踵を返し部屋を後にする。
ノゾミは後を追わず、部屋の本棚の上で寝そべっていたクーレニアを呼び、飛んできたクーレニアを腕に止めて頭に乗せながら静かに話し始めた。
「俺は、この時代には帰る場所もないですし……残りの時間全てをルリエ様に捧げます。皆さんは家族がいて、守るべき人達もいます……その事は、忘れないでくださいね」
穏やかに微笑みながらノゾミはクーレニアをあやし、そして一礼してから部屋を出ていき廊下を一人進む。
帰る場所がない。過去の人間故に仕方ないのかもしれないが、それはとても寂しい事だとノゾミ自身、胸に突き刺さるものがある。
「くーっ」
「大丈夫だよクー、大丈夫だから……」
肩に下りてきて頬ずりしてくるクーレニアにノゾミは答えるものの、はっきりとは言い切れずクーレニアをそっと掴んで優しく抱き締める。
仕方ないとわかっていても、強く、心が訴えてくる思いがある。
「俺だって……死にたくない……ルリエと、ずっと、いたい……」
英雄の真なる思いが暗闇に響き、白き竜は青き目を潤ませ彼に寄り添い続けるのみ。
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