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火蓋を切って落とすのは、相対する者同士だけではない。
ルリエの後方にいたオルタージ信者達が突然、土煙と共に棒切れの如く何かに吹き飛ばされる。
その衝撃は開戦を一気に停戦に追いやり、振り返ったルリエは土煙に立つ人影に目を丸くし、そしてその人物はクスリと笑みを浮かべ姿を見せた。
「ずいぶん楽しそうな事をしてるのね。私達も、参加させてもらうわ」
そう言って土煙を剣で断ち切り姿を現したのは、ディスラプターの長クレア・トルメンタ。
紅き中折れ帽を被るエメラルドの美しく長い髪を靡かせ、どういうわけか、今回は仮面舞踏会につけるような仮面で目元を隠しており、左右には竜人ハーキュリー、棒術使いバルテットを伴っている。
「ディスラプター!? ワタシ達とルリエの蜜月を邪魔しようというの!?」
前のめりにライアーがクレアを捉えながら言い放ち、歯を食いしばる彼女に対し、クレアは口元に手を当てふぅん、と含み気味に言葉を漏らし、ルリエを捉え直す。
(クレア様……)
剣の師であり、何かを知るクレアの出現はルリエの心を迷わせかけるが、息を深く吐いてから状況を瞬時に確認し直した。
(前を突破できれば……)
後ろに比べて前のオルタージの数は少なく、ライアー一人を抑えられれば包囲を突破できるかもしれない。
聖域に入り、神獣ハデスの力を借りられれば敵を一掃する事はできるはず。問題は、聖域に張り巡らされた結界を解かねばならない事。
結界を解いて入れるようにし、さらにその後内側から閉じねば袋小路となる。その間、どうしても足が止まる為、迅速に行動せねばならない。
「ルリエ様」
「わかっている、皆……行くぞ!」
囁くノゾミに答える形でルリエは仲間達を率い、前に駆け出して道を切り開く選択をする。
ライアーがすぐにこちらに気がつくが、すかさずノゾミが抑えにかかって剣を振るい、槍で受けたライアーと鍔迫り合いとなる。
「っく……ルリエを捕らえなさい!」
両手で槍を構え受け立つライアーの指示にオルタージの面々が動き出し、同時にディスラプター側も動きを見せ戦いが始まる。
「好きに戦いなさい二人共、私はルリエの所に行くから」
「承知! 愚か者共を蹴散らしてご覧になりましょう!」
「ノゾミをぶっ殺せればそれでいいが、金貰った以上は他の奴も殺らねぇとな!」
素っ気ないクレアとは対象的に闘志燃えるハーキュリーが勇み進み、巨躯を活かした掌底の一撃でオルタージ信者を数人まとめて蹴散らす。
片やバルテットもまた舌打ちしてから戦闘開始、自身に迫り振られる刃を避けては一人ずつ確実に頭をかち割って行き、二人の間をクレアが悠々自適に歩き進む。
(さて……どう転ぶかしらね?)
何かを思い考えるクレアにもオルタージ信者が四方八方から迫るも、刹那にはその全員の首が切られており、目にも止まらぬ鮮烈な剣技を持ちクレアは進み続けた。
そんな彼女に立ちはだかるのは小豆色の髪の女と、銀髪の男。二人のオルタージ幹部。
「っフフ、なんか面倒クサそう……殺っちゃえ」
「確かな腕を持つ者なれど、殺せぬ道理はない」
小豆色の髪の女ロゼが地を蹴って手にする歪な鈍器を振り被り、銀髪の男ダートが植物の球を掲げ地より牙を持つ花をいくつも出現させ、クレアと相対する。
が、風と共に花は全て切り刻まれ、ロゼの攻撃は黒き双剣が挟むように受け止め、小さく息をつくクレアの前に現れる、き麗人ジャンヌが目を鋭くしロゼを睨みつける。
「下衆共が……!」
「あとは任せたわジャンヌ、私は前の方に行くから」
かしこまりました、とジャンヌは答えながらも軽やかに走り出すクレアを見送り、何かを言いかけるも任務優先と切り替え、ニヤリと口が裂けんばかりに狂気を浮かべたロゼと一度弾きあって距離を取り直す。
「ダート、コッチは殺るカラ他を殺りナヨ」
「承知」
ロゼに答えたダートがその場を離れるも、ジャンヌは追わずにロゼと切り結ぶ。
自分の速さならは二人同時に相手にする事は容易い、しかし、と、命令に従いながらもジャンヌは何かを思い、静かに剣を強く握り敵と相対す。
ーー
青き光を帯びる白銀の神剣が、鮮烈なる剣技をもってルリエの道を切り開く。
韻を刻む足捌きと共に剣が振り抜かれ、オルタージの信者達を切り伏せながらルリエは前へ前へと進む。
「邪魔を……するなっ!!」
苛烈なる言葉と共に閃く剣が敵を蹴散らす。
自分が開いた道をルリがすぐに走り、やや離れて地上に立つアルトが矢継ぎ早に敵を射抜く。
「マリィ! ルリを守れ!」
襟巻きを広げながら騎竜マリィが鋭い爪を振り上げて迫り、体躯としなやかな尾を武器としルリを守りに入る。
戦闘力そのものは特別高くないものの、牽制してる間にアルトが射抜く時間や、ルリが走って行くのには充分だ。
そんなアルトを狙うものに対しては、ユーカが杖を強く握って魔力を高め、思いを込め詠唱に入った。
「生命の木々よ優しく詠え! トゥル・ジス・レイハ!」
迫り来るオルタージ信者だったが、ユーカの詠唱と共に何処からともなく生えた植物のツタが絡みついて拘束、断ち切ろうと藻掻くが切れずに倒れ伏し身動きを封じ込められる。
基本魔法のレイハ系、その攻撃魔法を使用したユーカであるが彼女の気質のせいか、相手を拘束し身動きを封じるだけに留まる。
が、その方がユーカとしては嬉しく、気兼ねなく魔法を行使しルリエ達の支援を続けていく。
「ルリエ様達は……私が守ります!」
「無理をするなよユーカ、生きて進むのだから!」
背中合わせに声をかけ合う乙女達の麗しき戦い、ノゾミもそれに奮い立ってライアーと切り結び続け、行く手を阻みながら敵の数を確実に減らしていく。
(後ろは任せて良さそうだ)
横目で後ろに目を配り、憂いがない事をノゾミは確認。レイジとヒースの離脱により不安は多かったが、戦えなかったユーカが支援を可能としたのは大きい。
本当は怖いのだろうが、誰かの為に役立ちたいと思う心が、ユーカの背中を押してくれているのだろう。
アルトも、マリィと共に戦ってルリエとルリを守り、そして、ルリエは前に進み続け目的地を目指し、包囲を突破しようとしている。
ルリも幼いながらにルリエに追いついており、ルリエの足を止めまいと必死だ。
強くなる仲間達、それぞれができる事をしている。かつての旅の時と同じだとノゾミは感じ笑みを浮かべると、一段と身体に力がみなぎり、歯を食いしばり苛立ちを見せるライアーを捉え直す。
「何処までもワタシの邪魔を……! ルリエはワタシのものです! 歌姫も! 戦乙女も! 全てはワタシのもの!」
歪んだ欲望を口にし、再び襲い来るライアーの槍が螺旋の風を纏って突き出される。
それを真っ向からノゾミは剣で受け止め、火花を上げながら押し合いとなりその中で、ライアーの言葉の違和感を冷静に分析していた。
(歌姫に、戦乙女……? ルリエだけではないのか?)
勢いをある程度殺してから槍を弾き、素早く前に出て反撃の一閃をノゾミは繰り出す。
しかしライアーも冷静に身を引いて避け、ノゾミも左右からオルタージ信者が迫ったので素早く身を引き、それぞれを切り捨てながら距離を一度取る。
「悪魔ノゾミ! ワタシのルリエを奪おうとするあなたなど必要ありません、あなたは悪魔です!」
「悪魔、か……また一つ、通り名が増えた事には感謝するが、ルリエ様は誰のものでもない!」
手にした武器に込められた互いの感情がぶつかり合い、発する言葉にも強さが乗って全身に伝播する。
歌姫を守る者。
歌姫を奪わんとする者。
歌姫を殺さんとする者。
混沌を極めていく戦場を、ルリエは切り裂き道を創造していく。
next……
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