スヴァルの噺し

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スヴァルの噺し

火の粉が舞う夜に 山の中腹、アマシロ コトノハは、麓の町が一望できる岩の上に立っていた。夜空の下で眼下に広がる街は戦火に焼かれている。 その街には今誰も居ない、家や商店に引火した火を消す者もいない。 先刻この街は放棄された。住民はこのオッソ領の港まで逃げて居るのだろう。 ーー父や兄達が避難させているから、きっと大丈夫だ。 オッソ公爵家とオッサ公爵家が、ベアード王家の幼い王ウルの後見人争いで、戦を始めたのがきっかけだ。 その戦いが5年も続いていた。 王家とその血筋である、公爵家はクマ尾族だ。 そして近隣の島や、大陸は獣人と呼ばれる獣の耳を特徴に持つ耳族と獣の尻尾を特徴に持つ尾族が多く暮らしている。 つい、1時間前にオッソ公爵家が大敗した。 この戦いでベアード王も亡くなっている。 ベアード王家で生き残っているのは、ウルの姉のアルス王女だけだった。 アマシロ家は代々オッソ公爵家に仕えているウサ耳族で、アマシロ家の男は剣術に秀でた才がある。 公爵家や王家の剣術の指南役や王家や公爵家の身辺警護などに携わっている。 アマシロ家の長女はこの国に2つある神の1つ、破国主の御魂(ウルスス)の巫女になる役目を負っている。 私も、巫女として修行を幼い頃から行ってきた。 坐禅や水行など、剣術も修行の1つだった。 街の惨状を目に焼き付けて、踵をかえし、山の上にある祠に向かう。 オッサ公爵家の者は直にここにあがってくるに違いない。 この島の神の1柱、破国主御魂であるこの神霊石を破壊するために。 この国には2柱の神を祀っている。 男神である破国主(ウルスス) オッソ公爵家が《ウルスス》を祀り 女神である守国主(マリティムス) オッサ公爵家が《マリティムス》を祀っていた。 ベアード王家は両方の神を祀っていた。 この島は上空から見ると熊の顔の形をしている。 ウルスス山は右耳の位置にある。 麓にはオッソの街が広がっていて、麓から山を登る参道の階段が100段ほどあり、登りきると大きな美しい社がある。 麓の住民はその社を参拝していたが、破国主(ウルスス)の神霊石は山のどこかに大切に隠されていて、アマシロ家の1部の者にしか場所は伝えられていない。 コトノハは石の祠に向かっていた。その手には真剣が握られている。 祠までまだ距離がある。 視線を感じて止まって振り返ると、体内魔力を循環させ周囲に魔力を広げる。 左斜め上の木の枝に人の魔力圧を感知すると素早く懐から棒状の手裏剣を取り出し素早く相手の頭に向かって投げた。 ドザッ と落ちる音がする。 まだ祠に向かって走ろうと振り返るとそこには10人位の気配があり、暗闇の中で黒装束の者に取り囲まれていた。 魔力の感知出来ないギリギリで刀を構えている。 ーーしまった、付けられてた。 咄嗟に抜刀の体勢を取る。 ジリジリと間合いを詰めてきた黒装束の1人が踏み込んで、コトノハの間合いに入ってきた、その瞬間、コトノハの刀が光る。 踏み込んだ黒装束は崩れ落ちた。 それを合図に次々と襲ってくる。 魔力を身体中に行き渡らせ、瞬時に10人を切るとスタスタと歩く、10人の黒装束が動きを止めてから暫くすると血が吹き出した。 コトノハは巫女装束を汚すことなく10人を倒し、急いで祠に向かった。 祠に着くと、そこには静寂だけがあり、祠が無事なのを確認する。 祠に向かって一礼をした後、 ほっと一息つき、祠に参拝し祠を守るようにして背を向けた。 「来るなら、こい」 魔力を循環させ周囲に広げた。 正面から何かが飛んでくると、それを刀で切る。 2つに割れたそれは、コトノハを通り過ぎて祠まで到達すると、爆ぜた。 その爆風で飛んできた祠の石が運悪く後頭部に当たった。 グラりと意識が遠のくのを踏みとどまり、懐から棒手裏剣を3本、焙烙玉が飛んできた方向に投げた。 意識が、遠のく。 ドザ ドサドサッ 落ちる音がした。 「マズイ、引くぞ」 黒装束らしい声がして、数人の気配が消えていった。 そして、コトノハは、その場で倒れて意識を手放した。
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