スヴァルの噺し

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夕暮れの境内 外に出る頃には、太陽が傾き焼け爛れた城下町をオレンジ色に染めている。 トボトボと焼けた街、木に雁字搦めになっているケルウス兵を横目に北に進み、北門を出て右に鳥居と100段の石階段を登りきる。 美しい社の境内にミツバは昔と変わらない笑顔で立っていた。 「コトちゃん久しぶり、元気だった? 」 最後に剣豪を決める御前試合の会場で会った時のままの笑顔だ。 「ミツバお姉ちゃん」 あの頃と変わらない笑顔と口調で何も変わっていないような感覚に陥る。 一瞬ヨツバの控え室での顔を思い出して、眉間に皺を寄せて俯いた。 「ミツバお姉ちゃんあのねずっと謝りたかったの」 顔を上げてミツバを見た。 相変わらず、あの頃の笑顔でスヴァルの前までゆっくり来ると、優しく肩に手を置いた。 「ヨツバちゃん私のせいで、自ら命を断ったのかもしれない、ごめんなさい、ずっと謝りたかったの」 「コトちゃんずっと気にしてたの? ヨツバのことはとても残念だったけど、試合に全力で挑んだ結果だったのでしょう」 スヴァルの肩に手を置いたままミツバは首を傾げた。 目に涙を溜めたままコクコクと頷いた。 「それにヨツバは私の側にいるわよ」 ミツバは優しい笑顔のまま横を見た。 そこには城の地下で空間と水の檻に閉じ込めた怨霊がいた。 「えっ、この怨霊、ヨツバちゃんなの」 「そうなの、私にツいてるの」 明るい声でニコニコとしているのに怖い。 背筋がゾクッとなり空気が重くなった。 「まさか、ミツバお姉ちゃんヨツバちゃんを殺したの」 「そうヨ、ヨツバたらゴジョウさんになんで負けたのかってうるさくテ、ヨツバは私を恨んでいるから、コトちゃんがせっかく空間を切って隔離したけど無駄なのよ、どうしても私の傍がいいってついてくるかラ」 「ミツバお姉ちゃんケルウス領の兵を元に戻してあげて、アレもミツバお姉ちゃんの呪術なんでしょ」 ミツバは黙って頷いた。 「コトちゃんなんで、ミツバが呪術を使えるか知ってル」 今度はスヴァルが黙って頷いた。 「あら、知ってたの?じゃあどうやって呪術を使うか知っているの? 許せないでしょ、マリティムスを、ここに暮らす全ての者をだましているのヨ」 「違う、違う、どんな種族だったかなんて関係ないマリティムス様が祀られたのは、この島に生きる者を守る為に犠牲になったから、その尊い命の犠牲を子孫たちが忘れないためだよ」 ミツバの両肩を掴んで前後に揺さぶる。 「マリティムス様を祀る限り、この島の内政は平和になるの、そう誓って犠牲になられたのよ、この事を御祖母様に小さいころから聞かされてきたでしょ」 ミツバはスヴァルを払いのけた。 その勢いのまま転びミツバを見上げる。 「ミツバお姉ちゃん?」 スヴァルを見下ろして片方の口角を上げ、刀を抜いてスヴァルに切りかかった。 座った状態のまま後ずさり避ける。 「コトちゃん、私はね名ばかりの巫女なのあなたと違ってネ」 スヴァルに向かって刀を突きを繰り出して、スヴァルは横に転がってよけた。 「どういうことなの、まさかもう、祀ってないとか、そんなことだから内乱に? でも祀らないかって直ぐには」 「そうよ、私も、先代も祝詞は既に失っているワ」 砂利を握ってミツバに投げつけた。 ミツバが怯んだ隙に立ち上がって刀を構える。 「その理由は魔力の使えないサル族だからですか?」 ミツバは魔術詠唱の準備をし始めた、 体内で魔力を循環させ高速に巡らせ始めた。 『 』 魔力が集中した額にスヴァルの魔力がこもった拳で殴る。 ミツバの魔力が霧散し魔術が使えない。 ミツバはキッと睨んだ。 「そうよ、あの種族魔力がないからって人の命使った呪術を使って、人を操り呪うのよおぞましいと思わなイ?」 「そのおぞましい呪術をミツバお姉ちゃんも使ったらなんの意味もないわ」 「私が先代に教わったのはこんな呪術だけ、人を呪う方法だけなのヨ」 2人は斬り合い、激しさを増している。 「それでも、3つ前の代まではマリティムス様をお祀りしていたのよ。 でも裏では、呪術を使って人を操りオッソ領主様の影として汚い仕事もやらされたと聞くわ、呪術を使って貶めるごとに祈りを一つずつ継承出来なくなっていったの。 あなたに分かる? このお祀りしたくても出来ないこの悔しさガ」 首を振って答えた。 「先代のオッサ領主様がベアード王を呪術で殺した後、呪術返しで、次の領主を決めることなくなくなられてしまってから、バジャー様と妹のシャール様は、お互いに呪術を使って呪い合っているのヨ」 「オッサ領主様はなんでベアード王を殺したの」 「さぁね、私は知らないわ。 オッサ公爵家の方々はアマコク一族を捕らえて贄して、呪術の道具として使っているの。 このままじゃアマコクの一族が滅んでしまウ」 「たからミツバお姉ちゃんはバジャー様に取り入ったの、ヨシさん、アシさん、ナシさん達を使ったの」 「そうよ、私たち一族をボロ雑巾のように使い捨てにする奴らを私が利用してやったのよ、ずっと安泰なアマシロ一族を道連れにするためにネ」 魔力を耳に流して影帯を使って上から斬り込んだ。 ミツバも耳に魔力を流して影帯を使う。 空中戦になる。激しさを増していく。 「アマシロを道連れにするだけなら、なんで、オッソ公爵の方々まで道連れにしたの」 辺りはすっかり暗くなり、刀が撃ち合う音だけが辺りに響いている。 「それはバジャー様の御意思ヨ」 「そんな、オッソ公爵家の方々はもう滅んでしまったのよ」 「そうね、そして、私がコトちゃんを殺せばオシマイよ」 スヴァルにミツバの刃が喉元にとどく。 影帯を枝分かれさせて刀を捕まえる。 スヴァルの刃がミツバを捕らえた。 そこに怨霊になったヨツバが割って入りミツバの代わりに斬られた。 ヨツバの依り代と一緒に斬った。そのままヨツバは霧の様に消えていく。 周りの引き寄せられた霊たちが悲鳴のような歓喜の声を上げて昇った。 「ヨツバーー、なんで、なんでよ、私をなんで庇ったのよ私がヨツバを殺したのに、、、、。 よくもヨツバを」 キッとスヴァルを睨み、涙を溜めてより激しく打ち込んでくる。 激しく打ち合う音と空中で火花が飛び散る。 スヴァルがミツバに抱きつくと同時にミツバの背中から血吹雪を散らしながらスヴァルの刀が突き立てられている。 「ミツバお姉ちゃんにどんなに嫌われても私は大好きだったよ」 ミツバの耳元で囁いた。 「バカな子」 ミツバの力が抜けて、肩にミツバの重さがのしかかった。 ゆっくりとミツバを地面に横たえた。 黒子の装束を着たうさぎ耳が5人が気配もなくミツバの周りに現れた。 スヴァルの目の前にいる黒子が1歩前に出て、深々と頭を下げミツバを抱えて闇に消えていった。 ーーアマコクさん家の暗部部隊かなっ 境内の白い小さな花を沢山つけた木に一陣の風が吹いて花びらが舞いながら、飛んでゆく。 花びらを目線だけで追いかけて空を見ると満天の星が輝いていた。 「魔法習おう、、、」 ヨツバちゃんとミツバお姉ちゃんの分まで悔いのないように。
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