スヴァルの噺し

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ヨシ、アシ、ナシ ようやく地上に出た。 朝日はでてはいないが東の空がぼんやり明るくなり出した。 シノンたちは家の高さよりも高く火柱をあげて火を起こしていた。 まるで送り火だ。火の粉が高く高く昇っていく、魔獣たちの魂が空に昇るようだ。 「シナンさーん、ただいまぁ」 送り火の近くに石を組んだだけの竈があり、そこに大きな鍋を火にかけている。その横でシナンが手を振っていた。 「無事だったんだね、よかったよぉ」 ホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。 鍋の回りに丸太が置いてある。 それを椅子にしてイソロクとアルが座り、言い争いをしていた。 アルが大きな赤い魔石の上で丸くなり、イソロクを威嚇している。 「シナンさんアレは何をしているのでしょう」 シナンがチラッとイソロク立ちを見て首を振った。 「あぁ、気にしなくていいよ、かれこれ1時間は、やってるよ。 それより、鍋食べな」 イノシシの鍋を木の器によそってスヴァルに渡した。 「お腹空いてたんです、いただきマース」 パクっ うんんーーぅんま 「シナンさん、美味しいです」 「そうかい」 シナンが鍋をかき混ぜながら嬉しそうに微笑んだ。 「乾燥天女草が入っているんですか?」 「おや。気づいたかい、うちの息子たちは何を出しても美味い美味いしか言わないんだよ、全く。 それに比べて、娘はいいね、色々気づいてくれるからねぇ」 「ふふっ、母も同じことを言ってました」 2人は顔を見合わせて笑った。 「天女草とっても香りがいいですね、イノシシの臭みを消してくれてます」 「そうだろう、まぁ乾燥天女草も最後だったから食べ納めだねぇ」 「そうなんですか?」 「あぁ、もう取りに行けないからねぇ」 「天女草は、水辺近くの土の柔らかい陽の当たる場所に生えているんでしたっけ?翼竜の生息地と重なるんですよね」 ーー天女草を取りに行けないかなぁ シナンが頷きながら答えた。 「そうなんだよ、昔は安定して翼竜の好物の酒宝珠がダンジョンで取れたんだが、今はもう手に入れられなくなっているからね。 最後にあんたに食べて欲しかったのさ、 私の天女草を使った鍋、あんたは私と息子たちの命の恩人だからねぇ、本当にありがとうよ」 「皆さん無事で良かったです」 空を見上げる、キラキラと火の粉が空に舞い上がっている。 火の粉がぼやけて見えた。 イソロクとアルは、まだ言い争っている。そこにイソイチ、イソジ、イソゴも加わってワイワイと鍋を囲んだ。 イノシシ鍋をおかわりして食べていると周りの音が遠くなった気がして近くに気配を感じた。 『コトちゃん久しぶりだねこんな形の再会でガッカリしただろ』 ーーうんホントだよ、サクラとツバキ、ユリさんを置いて何してるんですか、ヨシさん。 『コレは、仕方なかったんだ。』 ーーバカですか、アシさん、コトラとコトリ、コアラさんより大切なものなんてないはずですよ。 『コトちゃんオッサの者には気を付けるんだよ、手段を選ばない連中だ』 ーーナシさん何があったんですか?まさか、エルミースとアーリス、ウラヌスさん達に何かあったんですか? 『人質に取られたんだ言うこと聞かない訳には行かなかったんだ』 『ミツバには気をつけろ』 『みんなを頼む』 音が戻った。 3つの火の粉がオッサの街の方に向かっていく。 ーー家族の元に行くんだね。 ちゃんと帰れますように。
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