3.3.2

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3.3.2

 それから二人はバッティングを続けた。桜子は来た球の三球に二球はヒットした。少年野球時代のカンはまだ鈍っていない。だが、ホームランはなかなか出ない。一方、いつきは、バットがボールに当たるようになっていたが、ファールばかりで球が前に飛ばない。センスはよさそうだな、と桜子は思った。あとは思い切りか。 「前橋、声を出してバット振ってみろ。ボールに力負けしないぞ」  隣のコースで、いつきが頷いてバットを構えた。 「《天びん秤》さんに、会いたい!」  カキンといつきのバットからいい音がした。  《天びん秤》に会いたい、って? まだ、そんな夢みたいなこと言っているのか。桜子はバットを構え、闇から飛んでくる白球を見据えて振った。 「頑張れ、前橋」  そうさ、頑張れ、前橋いつき。そして、大人になれ。  手ごたえがあった。上向きのライナーで飛んだ打球は、ホームランマークのわずかに下のネットを揺らした。  負けないぞ、といつきが呟いた。再び構える。 「ボクは間違っているかもしれない。これじゃダメなのかもしれない。それでも」  いつきは構えたままボールを待つ。ピッチングマシンが唸りをあげて球を投げた。 「ここにいちゃ、ダメですか!」  いつきのバットから快音がして、初めて球が前に真っすぐ飛んだ。  桜子の胸の奥から、黒いものが広がった。ここにいてはだめなの? そう言いながら泣きじゃくっている小学五年生の自分。ショートカットで真黒に日焼けしていたわたしは、小さな野球少年だった。  わたしは、同級生たちより、バッティングも守備も上手かったのに、女の子は五年生からチームを続けられない、と監督に言われた。野球が大好きだったのに、悔しくて、でもどうしようもなくて、生まれて初めて人前で大泣きした。
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