5人が本棚に入れています
本棚に追加
3.3.3
女だからダメ、ここにいちゃダメ。そんなことない、負けるもんか、と今まで頑張ってきた。でも、辿りついた今の場所で、わたしはこんなにも苦しい。思い通りにならない。入社当時に思い描いた、わたしの姿はこんなんじゃない。
ピッチングマシンから球が飛んでくる。桜子は慌ててバットを振った。空振り。制限時間はあと残り少ない。このままじゃ一本もホームランが打てない。いつきみたいに、何か叫んで打つんだ。しかし、こみ上げてくるものが多すぎて、声にならなかった。
カッキ―ン。抜けるように長く響く金属音に、桜子は目を上げた。いつきが打ち上げた打球はふらふらと夜空に舞い上がり、放物線を描いて、ネットのホームランマークにぶつかった。
「当たった! これ、ホームランですよね」
コースでいつきがはしゃいだ。その後もバッティングを続けたが、ホームランはいつきの一本だけだった。
「楽しかったです! ボールを打つと、本当に、スッキリしますね!」
満面の笑みで語る、いつきが桜子には眩しかった。
「失望しただろう」
自嘲の言葉が、桜子の口をついて出た。
「偉そうなことを言っても、わたしなんて、こんなものだ」
得意だったバッティングも、仕事も家庭も、ただもがくだけで何もできない。
最初のコメントを投稿しよう!