ナイーヴ

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「誰か!誰か、旦那様を呼んで!」 夜も更けた真夜中。 厨房からメイドたちの泣き叫ぶ声が聞こえる。 走り回り、逃げ惑う足音が響き渡る。 「こっちに来ないで!」 「いやぁ、あっちに行って!」 寸胴(ずんどう)が床に倒れ落ち、轟音がする。 執事頭すら立ち向かえずに立ったままガタガタと震えている。 「何ごとか!こんな真夜中に!」 たいそう髭を蓄えた大柄な旦那様が厨房に到着し、使用人たちは安堵する。 「旦那様!ご覧ください!出たのです!とうとう!!」 ワナワナと震えながらメイドが指差す先には20センチはあるだろう、ツヤツヤと美しい黒い羽根をした絶滅間近の古代ゴキブリキング。 真っ赤に紅潮した顔が一気に青ざめ、旦那様は絶叫した! 「ママン!ママンを呼べーーー!」 10分後、離れから御歳(おんとし)90になる120センチのお母様がいらして、厚底ブーツをレイザービームのごとくゴキブリキングにぶつけたら、そばにあった新聞紙でガッとわしづかみ、バカラの花瓶にジャポンとつけてひとこと。 「バルサン、しときんしゃい」 そして屋敷に平和がおとずれた。
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