1人が本棚に入れています
本棚に追加
西暦2122年。世界はあらゆるものをデータ化し、ネットワーク上で管理している。そして人類は脳に埋め込んだマイクロチップによって、身一つでネットワークにアクセスすることが可能となった。
大体のことは思考──チップが脳波を受信──すれば、買い物や連絡などの雑事が出来る。加えて今や交通は全て自動運転だし、ロボットが労働を担い、人間のすることはほとんどなくなった。
こうなると人類は大体3つの種類に分かれる。1つはロボットでもできない仕事──研究職、または芸術職に就く者。
2つ目はそのロボットやネットワークを管理する者。
そして3つ目が、やることがなくなって1つ目と2つ目の仕事の人たちのお世話になりつつ、道楽を尽くす金持ち。目の前の依頼人などがいい例である。
昔はやれ「物が大きくて持ち運ぶのが不便だ」「かさばって部屋が物で溢れる」と文句が多かったらしいが、今や身一つでどうにかなるので人類皆ミニマリストだ。
その反動か昨今はデータではない実物を持っているのが、金持ちのステータスらしい。
あえてデータ化せず、家に物を置くということが、それだけの敷地の土地を持っていることを示す。データ化に加え、人口増加により人は最低限のワンルームに住むのが現在では一般的だからだろう。
さて、そんな金持ちの中でデータ化せず実物するので人気なのが「自叙伝」である。大体の人が自費で作り、家族や同じ金持ち仲間に配る。この配布や交換も、本を何冊も家に置けるという金持ちの証明になるらしい。
先程、人類は三つの種類に分けることが出来ると言ったが、訂正しよう。こうした自叙伝を相棒のアンドロイド共に書く、私を含む四つ目の存在──「タイムライター」を。
元々は小説家の仕事の一つだったらしいが、いつの間にか専門職へと変わっていき、冒頭で説明した1つ目の芸術職(作家)と、2つ目のロボットの管理が出来る者が就く仕事となっている。
このアンドロイドは依頼人のマイクロチップと同期することが可能だが、これはただの同期ではない。
脳内のチップ内に記録、保存された過去の記憶にアクセスし、その当時の依頼人を再現するのだ。他の霊魂を自身の身に憑依させるイタコ……言うなれば依り代に近い。
自叙伝を書く際に過去を振り返っていると、どうしても「何で昔の私は、こんなことをしたんだ?」と、首を傾げる依頼人が何人かいる。当時の心境を推測で補う人もいれば、わからず中にはそこで口述が止まってしまう人も……そんな事態を回避するために、開発された特別なアンドロイドだ。
そして雰囲気づくりのためか、かつて文書制作に使われていたタイプライターに似た機器で人の歴史を綴る私は「タイピスト」と呼ばれ、そして過去の自分を再現しタイムスリップのような感覚を味わせるアンドロイドを通称・「ドール」と呼び、この二人一組を人々は──「タイムライター」と呼ぶのだ。
最初のコメントを投稿しよう!