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② @聰
最近駿くんの様子がおかしい。
半分以上断っているとはいえ飲み会の強制参加がうちの部署は多すぎる。営業だから仕事に必要ではあるけどそれは何も俺じゃなくてもいい話だ。以前の俺なら何の問題もなかったけど、今は駿くんがいる。上司に相談してせめて駿くんが慣れるまでは融通を利かせて貰う事にしよう。
突然両親と離されて、この部屋にひとりでいるのは寂しすぎる。
だからあんな――お風呂に乱入するような事してしまったのではないだろうか……。あのまま断らなかったら――、ごくりと喉が鳴る。
たったそれだけの想像でゆるやかに頭をもたげそうになる愚息を気合で鎮めた。
俺も駿くんと出会うまでは仕事しごとで家には寝に帰るだけだった。ご飯だってコンビニ弁当で済ませたし、レンジで温める時間も惜しくてそのまま食べる事もしばしばだった。それが今は駿くんが美味しくて温かいご飯を用意して待っていてくれる。こんなの『最高』なんて言葉では表わせない。
たとえそうでなくても駿くんが傍にいてくれるだけで俺は幸せなんだ。
それ以上求めてはいけないと思うのに、駿くんがくれる抱えきれない程の沢山の幸せに、つい勘違いしそうになってしまう。
だけど忘れてはいけない、俺が駿くんにしてしまった酷い事を――。
悔やんでも悔やみきれない、どんなに悔やんだってあの日には戻れない。
駿くんはまだ十八歳の高校生で、いくつも存在したはずの未来を俺が乱暴に壊してしまった。選ぶ事もできず進むしかない未来。
発情フェロモンに惑わされたとは言え駿くんに罪はない。俺がもっと自分を制御できていれば項を噛むなんて事しなかったはずだ。
αのひと噛みでΩの人生が決まってしまう事は嫌と言う程知っていたはずなのに――。
*****
俺の母親は駿くんのように事故で番ってしまったΩだ。
母はお腹が大きくなるまでその事実を祖父母に隠していた。すぐにでも話していれば何か方法があったかもしれないが、まだ少女だった母は見知らぬ誰かに襲われただなんて事恥ずかしくて誰にも言えなかったそうだ。
どんどん大きくなっていくお腹に比例するように様子がおかしくなって、臨月を迎える頃には完全に心を閉ざしてしまったらしい――。
これには少女の未熟な身体での意図しない妊娠と、番ってすぐに番を解消された事も関係しているらしい。
そうして俺を産み、そのまま――――。
俺は母親の両親の元で育った。母の姿は写真や残る映像でしか知らない。まだ幼い少女の母の笑い声、こんなに幸せそうに笑っていた母から未来を奪ったαが憎かった。
事故で番ってしまった事はどうにもならない事だったかもしれない、だけどその後の事はどうとでもできた事だと思う。
俺は自分がαだと分かった時、絶対に父のような――父だなんて呼びたくはないが遺伝子上は父親である男のような事はしないと誓った。
いつもα用の強めの抑制剤を服用していたし、今までも突然ヒートを起こしてしまったΩに遭遇した事はあったが理性を失う事はなかった。
なのに駿くんの時は最初からもうダメだった。これが『運命の番』と呼ばれるものだとしても、それは言い訳にもならないと思っている。
俺は意識のない駿くんを穿ち、項を噛んだのだ。
俺の事をいくら責めてくれても嫌ってくれても構わない、ただきみの安全と幸せになる手伝いをさせて欲しい。
俺の全てできみを守り、俺の全てをきみに捧げるから――――。
「駿くん……ぃしてる……」
決して駿くんに伝えてはいけない俺の想い。許されない想い。それでも駿くんを求めてしまう――。
俺はどこまでも身勝手で貪欲で――、そんな自分が……
嫌いだ。
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