3 親友の告白 ①

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3 親友の告白 ①

「なぁ駿、お前……本当にΩか?」 「え?」  話があると言うので居残りしていた夕暮れの教室でふたり。  突然そんな事を言い出す小山にきょとんとしてしまった。  こないだの図書室では最初こそ驚いた顔をしていたけど、すぐに納得してくれたように見えたんだけど違ったの?  小山は今までずっと僕の二次性判定の結果がβだった事を知っているから、言葉だけじゃ信じられない?  以前から小山が僕の二次性を気にするのは少し異常だなとは思っていた。自分の事は誤魔化すくせに僕には毎回しつこく訊くのだ。最初の時なんか判定結果表を乱暴に奪われたりもした。  あんまり気にするものだから、僕がもしも『β』以外だったら友人ではいられないのかと不安になった。だから僕はこないだの実質最後の二次性判定の結果がΩになっていた事を小山に言えなかった。  だけど図書室での小山の様子から僕がΩでも僕たちが親友なのは変わらないって安心していたんだけど――。 「いや……だって、さ」  と、小山の顔がふいに近づいてきて首元をすんすんと嗅いだ。 「やっ」  本能が拒絶し、小山を押しのける。Ωとしての自覚の薄い僕ですら反応してしまう、それ程項はΩにとってのウィークポイントなのだ。  もう一度噛まれたとしても僕は既に番っているから意味はないと分かっているけど、項が急所である事には変わりがない。たとえそれが番関係の成立しないβであっても、番以外の誰かが近づく事は恐怖でしかない。ぞわぞわと鳥肌の立った項を撫で摩る。  その様子を小山は驚愕の表情を浮かべて見ていた。 「――その反応……Ωっていうのは間違いない、って事か。だけどフェロモンが…………」  思案気に眉を顰めて、そして何かに気づいたのかハッとした顔をした。 「駿……おま、え――」 「うん?」 「番った――、のか?」 「あーうん。そう、だよ」  訊かれてしまえば誤魔化す事はしたくなくて、聰さんの事を誤解されないようにどう伝えればいいのか考えていると、今度は制服の下に着ていたパーカーのフードを引っ張られ、項に残る噛み痕を確認しているようだった。そして怖い顔で僕の両腕を痛いくらい掴み、叫んだ。 「誰とっ!?」 「誰って……小山の知らない人……」 「嘘……だろ……」 「嘘じゃない、けど。そんな驚く事? β仲間からは外れても僕たち友だちでしょう? それとも僕がΩだと友だち……やめるの?」  そう言った途端、この世の終わりみたいな顔をしていた小山の顔が更に苦し気に歪んだ。 「そういう事じゃ……ない。そうじゃ、ないんだ」  一度も聞いた事のないような絞り出すような低い声に首の後ろがぞわりとなる。 「俺は……俺は……」 「う……うん?」  光の消えたような瞳で僕の事を見つめる小山に初めて怖いと思った。逃げなきゃって――――。  でも僕は逃げる事はせず、小山の言葉を待った。  小山は親友、だから。  逃げる必要なんて、ない。
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