星の欠片に願う夜

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「結局、その年の終わりくらいから、僕の反抗期が始まったんです。きっかけみたいなものがあったわけじゃないんですけど、多分すごく些細な事から。その後しばらくして父さんがユミさんとコナツちゃんを連れてきて、再婚するって言いだしたんです。だから釣りも中一の夏休みが最後。ミミズを触れるようになるっていう龍さんとの約束も果たせずじまいで。それが心残りで、社会人一年目の春に行ったんですけど、店は閉まっていて」 「まぁ、どうしたんでしょう」   空になった朝食の食器をお盆に乗せていた奈緒さんが、不思議そうに目を見開いて顔を上げた。 「釣り中の事故で大けがを負って店を閉めたんだと聞きました。父さんが再婚してからも何度か釣りに誘われたのに、断り続けました。家に居場所も無くなって、おばあちゃんの家に暮らして。父さんが作った料理を食べるのも、釣りも、再婚してからは無くなりました」   僕の沈んだ声の上を、時計の秒針が一定の音を立てながら通り過ぎていく。 奈緒さんは「そうでしたか」とだけ呟くと、お盆を手に台所の暖簾をくぐった。 「僕がやりますよ」と、慌てて後を追うも「今日は雨ですからそんなに仕事も無いですし。ついでに珈琲淹れますね」と、ひょろりと細長い口のケトルを火にかけた。   黒いカップに入れられた、食後の珈琲に口をつける。 奈緒さんが淹れる珈琲は、砂糖の代わりにメープルシロップや蜂蜜を使う。 今日はメープルシロップだ。まろやかな優しい甘さが、深入りの珈琲に混ざり合って、ほっと白い息を吐いた。
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