星の欠片に願う夜

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三体のお地蔵様が手を合わせる道に出る。 よく見ると、お地蔵様の首元に巻かれた赤い前掛けの生地に見覚えがある。 ミミちゃんの川辺にあるお地蔵様にも同じものが巻かれていた。確か、あそこは奈緒さんが手入れしている。 そうか、ここも彼女が。 「アキラさん、置いて行っちゃいますよ」   先を歩いていた奈緒さんは、狐が祀られた祠に手を合わせて花を生けていた。 カーブに立つ大きな楠は、幹と言う手を四方に伸ばして、まるで空を仰いでいる大きな人。 神様みたいだ。 ぽたり、と葉を滑り落ちて来た雫が頭の頂点で跳ねた。   レモンイエローの陽光が木々の合間を縫って森に射し、麗らかな鳥の囀りが森に樹々に反響する。 水蒸気が反射して、森全体が淡いベールに包まれているみたいだな、と澄んだ雨上がりの空気を胸いっぱいに吸い込んで吐いた。 「ここなら、神様もいるような気がするでしょう」   奈緒さんは背中を向けたまま、ふと口を開いた。 木で出来た階段も、苔に覆われ、枯れ葉が積もり、急勾配の上り坂だ。 かなり滑りやすい斜面を、奈緒さんは慣れた足取りで、近くの太い枝や幹、根っこを掴みながら山を登っていく。 「私の母は、父の暴力で離婚したんです。酒癖が悪くて、毎晩飲んでは暴れて。その様子を、私も見てきました。見て来たからこそ、この世界に神様なんて存在しないって思っていました」   アカネさんと出逢った滝の見える場所に出た。 奈緒さんは崖の傍の祠にも花を生け、祠の脇にある大人一人でも通るには狭すぎる道へ頭を下げながら進んで行く。   ちょうど僕の顔の高さにまで、枝が張り出しているのだ。 奈緒さんは頭を下げるだけで進んで行けるようだが、僕は四十五度は腰を折らなければ通れそうにない。 それでも数歩ごとには額に枝が擦れて、僅かに血がにじむ。   僕が本当は死んでいるのなら、血が出るなんて不思議な話だな。それともこれは、僕が後悔している証なのだろうか。 まだ生きていたい。死にたくなんてなかったという、心の現れなのだろうか。 「両親が離婚して、母と暮らしているうちに家族が出来ることになりました。再婚することになったんです」   再婚――ちくり、と胸を針で刺されたような感覚になるが、返事もしないまま黙々と後ろを着いて行った。
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