星の欠片に願う夜

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「頑張ってくださいね。もう少しですから」   奈緒さんは軽く会釈した姿勢のまま振り向く。 「再婚はとても怖かった。新しい父が本当に良い人かどうか、子供の私には見極められなかったからです。また母が殴られ、髪を掴んで引きずり回される日が来るんじゃないかって。私はそれに怯え震えながら、部屋の片隅で見ているしかできないのではないかって」   そう話す声からは、恐怖を感じない。それよりも、どこかその過去を傍観して嘲ているように思える。 「新しい家族は……」 僕は無意識に口にしていた。 「それでも新しい家族に馴染めたんですか」   僕の問いに、奈緒さんは背を向けたまま返事をしない。 「新しい父はとても良い人でした。私たちにはあまり言葉は多くなかったけれど、息子さんの事を話すときは、いつも表情が緩んでいました。でも――あ、ここから少し道が険しいので気を付けてくださいね」   少しどころではない。アニメに出て来そうな子供サイズほどの木のトンネルをくぐって行く。 ここまできたら流石に奈緒さんでも四つん這いで進むしかない。 雨上がりでぬかるんだ道を、奈緒さんはスカートが汚れるのも全く気にしていない様子で、出口と思われる光を目指して進み続ける。 先にトンネルを出た奈緒さんが、軽くスカートを払ってから、しゃがんで僕に手を差し出した。 「お疲れさまでした。着きましたよ」   もう泥だらけだ。掴んだ奈緒さんの白い華奢な手のひらも、茶色く染まって、かさついている。 「さっきの話の続き――」   軋む腰を伸ばすように立ち上がる僕は、そこまで言って息を呑んだ。
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