47人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「ここは……」
「アキラさん、この場所をご存知でしょう?」
青い空と、遥か高くに沸き立つ入道雲。
その入道雲を真横に突っ切るように伸びる、一本の飛行機雲。
そして、辺り一面の、ひまわり畑だ。
地面を覆いつくすほどのひまわりが、太陽に向かって背伸びをするように。
「母さんの、写真」
立ち尽くす僕に、奈緒さんはポシェットから写真を一枚手渡す。
「どうしてこれを奈緒さんが。これは、僕の財布にいつも入れていたはずです」
「これはアキラさんの遺品から、私が引き取ったものだから」
目を細める奈緒さんに、僕は固まったまま「イ、ヒ、ン」と、手元の写真に視線を落とす。
僕が財布に入れているものよりも少し色褪せた写真。
ひまわりのなか、父さんが向けるカメラに笑う母の写真。
僕が、唯一「母さん」と呼びかけられる大切なもの。
「ここは、その写真が撮られた場所です。当時はきちんと道も整備されていて、流石にこんなに泥んこにはならなかったようですけれど」
ふふっ、と肩を揺らしながらスカートの泥を払い、手をハンカチで拭った。
「アキラさんは、ここを探していたんでしょう?」
思わず顔を上げる。目の前で、奈緒さんが優しく微笑んだ。
少しあどけなさの残る、大人の女性の姿。
「あ、あの奈緒さん、さっきから何を――」
さあっと、僕と奈緒さんの間を風が駆け抜ける。
ひまわりたちが一斉に頭をふるふると揺らし、同時に懐かしい香りが僕のなかに眠っていた記憶を呼び覚まし、無意識にふらふらとひまわりのなかを進んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!