星の欠片に願う夜

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海だ。 ひまわりを抜け、眼下に広がるのは真っ青な夏の海。 地球をかたどる水平線と、僕の頭上を滑空するとんびが長閑に鳴いている。   そうだ。僕はあの日、ここを探していたんだ。 四日前じゃない。 自分の勤めていたビル街を見たかったんじゃない。   父さんが言っていた。 この写真は母さんの代わりだと。このすぐ後に、僕が母さんのお腹に宿ったのだと。   僕はあの日。最期に、母さんと父さんがいた場所を見たかった。 父さんと母さんが幸せに包まれていた時の世界を見てみたかった。  「僕はここに辿り着けなかった。探しているうちに疲れ果てて、どうでもよくなって。それで……」   あのロープを括り付けた場所に辿り着いたのだ。 昨夜、アカネさんと話していた最期の僕の姿。 「アキラさんを最初に見つけたのは、橘さんですよ。私たちが駆け付けた時には、柏木さんもいました」   今度は僕の携帯電話を差し出した。 「メッセージ、見てください」   画面に触れる指が小刻みに震える。仕事関係で括ってあるグループを押して、メッセージ画面が開いた。   最初に目に飛び込んだのは橘さんだ。立て続けに言葉が並んでいる。 「無断欠勤か。連絡する気が無いなら、仕事早めに切り上げて個人的に探しに行く。柏木が昨日、お前を見たかもしれないと言ってた。あまり動き回るなよ」――これは僕が最後に見たものだ。 「どこにいるんだ。場所を教えてくれ」 「仕事の事なら大丈夫だ。明日俺も一緒に行くから。つらいなら部署を変えるよう、掛け合ってもいい。電話に出てくれ、頼む」 「電波が繋がらなくなるからその前に返信してくれ。怪我は無いか?そこから見えるものを教えてくれ」   そこから三十分ほど空いて、橘さんの最後のメッセージが来ていた。 「電波が繋がるギリギリの場所みたいだ。初めて契約が取れて飲みに行った時、おふくろさんの話してくれたよな。写真も覚えてるぞ。あの写真が心の拠り所だって言ってたが、まさかそこにいるのか?」 柏木も「どこにいるんですか」「橘さんも心配してます」「橘さんと一緒に探しに行きますから」   柏木は最後に 「こんな事じゃ許されないけれど……今まで本当にすみませんでした。会社に入るまで何やっても駄目な人間で。先輩に成績で勝てて、調子に乗ったんです。初めて人に勝てる経験をしたから。今まで自分がされて一番つらかった事なのに、同じことを先輩にしてしまって。俺、本当に最低です」   そのメッセージが送られた時刻は、僕が死んだ後のものだった。
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