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「コナツちゃん、待っててくれてありがとう。死ぬなんて決める前に、もっとちゃんと話してみれば良かったよ」
「そうだよ……声を掛けようと思ったらいなくなって……」
コナツちゃんは「ううん」と訂正するように頭を振る。
「私もまだ新しい家族、特に男性に対して不安があったの。晃さんのお父さんは、再婚前から本当に私の事を可愛がってくれて、幼稚園行事にも来てくれていたの。だから、その人がお父さんになるって知ったとき、とても嬉しかった。『晃とも仲良くしてほしい。母さんもいなくてずっと寂しい思いをさせてしまったから』って。でも、私は晃さんに話しかける勇気が無かった。お兄ちゃんって、何度も言おうとしたのに、結局言えなかった。本当の事は隠したままだったけれど、ここでゆっくり話してご飯を食べて、少しの間だけ普通の家族みたいに過ごせて幸せだったの。私は、幸せだった」
涙を拭うのも惜しむように、目をしっかり見開いて消えていく僕を見つめている。
父さんが再婚前にコナツちゃんときちんと関りを持っていたなんて知らなかった。
父さんは、家族を作ろうとしていたのだ。
なのに、僕はどうだ。
コナツちゃんが「お兄ちゃん」と呼ぼうとしてくれていたのも知らない。
たった五歳の女の子が、不安を押し殺し、勇気を出して話しかけようとしていたのに、僕はそんな少女に歩み寄りもせず、背を向けて逃げ出したじゃないか。
目の前にいる二十八歳のコナツちゃんが、遠い記憶にうっすらと蘇る五歳の女の子と重なった。
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