二章

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二章

 入学式の日の終礼はあっという間に終わり、俺は不思議と誰にも口を開かなかった。四十人もいるはずの生徒の中で不思議と孤独感を感じていたのだ。  俺は誰よりも早くクラスのドアから出ていき、山下のいる二組の教室へ向かった。と言っても、隣の教室だ。  行くと、山下も一番右うしろの席にいた。そうだ、普通はヤとかワの生徒がその席に座るはずなんだ。ウの俺がそこに座っている意味がわからない。早くそのことを山下と共有したかった。  一組の終礼が終わると、真っ先に山下が出てきた。半笑いで聞いてくる。 「どうしたんだよ、出待ちの客か?」 「うるせぇよ。俺のクラスが大変なことになってるんだよ」  山下はそれを聞いて興味津々の様子だったので、俺はクラスの異常事態を話した。 「それはおかしいな。そもそも俺たちの学年に、そんなにイから始まる子が何人もいたのに驚きなんだが、そこまで意識的に集められてるのに安倍くんって子と宇野が混ぜられてるのも変だ」 「ちなみに山下のクラスにイから始まる子はいたのか?」 「あぁ、そういえばいたな。一人だけ」  一人だけ? 少ないな。イから始まる名字は最大派閥のはずだ。やはりうちのクラスのしわ寄せが他のクラスにいっているのか。 「なんて名前だったかな、そいつの名前……」  山下は悩んでいるが、もはやそんなことはどうでもいい。 「あ、思い出した。市川けいいちだった。お洒落な靴下履いてたんだよな〜」 ん? 「今、山下、お前何て言った?」 「え? あいつ、お洒落な靴下履いてやがってよ」 「そこじゃねぇよ! そいつの名前だよ」  そのとき、教室から出てきた男子生徒が俺のほうへ近付いてきた。 「市川けいいちだよ」 「おぅ市川くんか」  山下は気さくに話しかけているが、俺は嫌な予感がしていた。市川くんの裾の下から見え隠れするトマト柄の靴下も気にならなかった。 「山下、他にフルネームで覚えてる子いないか?」 「え、なんだよ、急に。そうだな……百瀬ももかさんって子がいたな。別に、可愛かったから覚えてたわけじゃねぇぜ」  そんなことはどうでもいい、もはや展開的にはそこの掛け合いで楽しむ問題じゃなくなってるんだ。 「なぁ、それがどうかしたのか? 市川けいいちくんと百瀬ももちゃんがどうかしたのか?」 「山下、お前の名前なんて言うんだよ」 「え?」 「お前の名前は何て言うのか聞いてるんだよ。そのうえで、さっきの二人と照らし合わせてみろよ」 「俺の名前は山下・マシュー・はじめ……」 「え? 山下くん、ミドルネームあるの? ハーフ?」    市川がのんきなことを言っている。  だが、山下は一つの共通点に思い当たったようだ。 「まさか、俺のクラスは名字に入っているひらがな二文字が名前にも続けて入っている生徒が集まっているのか? 『イチ』かわけい『イチ』、『モモ』せ『モモ』か、や『マシ』た『マシ』ューはじめ……」 「そうだよ、一応まだ出てない他の子の名前も照らし合わせてみろ」 「あ、そうか! ほんとだ。三木みきちゃんって子がたしかいた」 「そんな、あからさまなやつがいて、どうして気付かなかったんだよ!」 「ホントだ。浜田はまお、田端ばたみ、渡辺なべこ……二文字が連続する子ばかりだ」 「そうだ。そしてこれは、そんな漫画みたいな名前の子たちや、山下みたいなミドルネームで無理やり条件を満たす生徒をかき集めてまで成立された、いわばミステリーの世界で言うところのミッシングリンクだ」
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