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「どうだったかな? 俺の演技…」
松本が探るような目つきで、悠多に訊ねる。悠多の方が10cm以上背が高いので、下から覗くような感じになった。
そう言われても……
悠多は正直困った。松本の出番といったら、刑事達の捜査会議で一番後ろの席に座っていたのと、犯人を追って走るシーンと……。待てよ、台詞あったっけ?
「テレビ観たら、台詞喋ったシーンがカットされてたから」と松本がポツリと言う。
「そうかぁ……」
「ショックだった……。でも、犯人を追い詰めたシーンで大塚さんの台詞に『はい』って返事してたでしょ、俺」
大塚は主役の刑事を演じていた。
「ん?」
「あれ? わからなかったかなぁ…」
「お、おう、…ああ、あったあった。下っ端刑事らしかったよ」
「でしょ! 俺としては下っ端刑事の葛藤を出してみたわけで」
「ああ、なるほどな…そういう表情してたよ」
なるほど、だから、つるりとした顔のくせに眉間に皺を寄せてたのか……。悠多はまじまじと松本の顔を見下ろす。
「よかった、伝わって」
今日初めて松本はつくりものでない笑顔になった。
悠多は、そうか、こいつは同期の反応がすごく気になっているんだと気づく。今更、俺の反応見て、優越感に浸りたいのかよ? まともな台詞もないんじゃ、エキストラと変わんねーだろ! 悠多は毒づきたい気持ちを抑える。
「せっかくだからうちの舞台見てってよ」
悠多は階段の方へ松本を促す。足の痛みを悟られないように気を遣う。
「うん。これから稽古だからあんま時間ないんだけど」
松本の言葉は棘となり、悠多の心に刺さるようだった。
今稽古している劇団 紺碧座の若手によるアトリエ公演のついて話し出す松本は、声も表情もいきいきと輝いている。
実際本当に稽古前にうちに寄ったんだろうけど、わざわざ言うか? 悠多の心がざわつき、つい階段を乱暴に踏みしめ左足に激痛が走り固まってしまう。
「大丈夫?」
松本が背中をまるめた悠多に触れたが、思わず乱暴に払ってしまう悠多。
沈黙という重い空気がたまる階段……
「やっぱり、悠多さんも俺のこと嫌い…なんだな……」
松本の言葉に驚いて、悠多は同期の顔を見上げる。そこにはひどく傷ついた表情があった。
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