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夢を見ていた気がした。
子供のころの柾と光希が出てきたような気がするのは、昼間に久々に江戸川の土手に行ったせいか……
悠多はまだ朝ではないと感じ、手探りでスマートフォンを見つけ触れると、午前2時をまわったばかりだった。
劇場オープンを控えて緊張してるのか……。あとまだ何か準備で漏れはないだろうか……
ぼおっとした頭で思考しようとするがうまくいかない。寝返りを打つと同時に、ふと、かすかな物音を感じ、悠多ははっきりと目を開けた。そのままの姿勢で耳を澄ます。深夜の静けさのなか、かすかな音が床の下からしてくる……。どっくん。悠多の心臓が鳴った。
誰かいる? ステージに誰かが? まさか……
悠多の住居は劇場の上の階にある。つまり、今寝ているベッドを置いている床の下が劇場というわけだ。
ベッドから床にそっと降りる悠多。なぜか物音を立ててはいけないように思ったのだ。スマートフォンの明かりをかざし、そろりそろりと床を進み、部屋の隅までいき片膝をつく。
床には、人一人が通れるくらいの正方形の扉が作られている。それの取っ手に手を掛け、悠多はゆっくりとそれを上方向に開けていった。
階下の劇場はーーー
真っ暗であった。深夜であり、地明かりさえ点けていないのだから当然だ。
はしごを降りていけば、劇場のキャットウォークに降り立つことができる。しかし、悠多はそうしなかった。床の四角い穴から上半身を乗り出し頭を下げ、じっと目を凝らした。
暗闇のなかに白っぽい何かが儚げな様子でくるり…くるり…と回っているようだった……
※演劇用語解説
【地明かり(じあかり)】 照明用語。作業をするための照明。
【キャットウォーク】 劇場の壁の高い位置にぐるりとついている点検あるいは作業のための通り道。
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