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暗闇に目覚めた悠多は、体中の痛みにうめいた。
見上げると、天井に四角い形をしたかすかな明かりが見える。それは、キャットウォークのはしごを登った悠多の部屋へ続く穴だった。3階の自室の窓にシャッターはなくカーテンのみなので、外の光が透けているのだ。悠多は自分がステージ上に横たわっていることに気づく。
慌てて立ち上がろうとして、左足の痛みでよろけてしまう。
マジかよ。やっちまった……
キャットウォークからステージへ飛び降りて、足を痛めてしまったようだ。我ながら、なんて危険なことをしたんだと舌打ちをする。劇場主の立場としては、劇場利用時の禁止事項に入れるべき行為であった。
クソッ。あの白い女優のせいだ……
通勤、通学の時間帯が過ぎてから、悠多は劇場前の掃き掃除を始める。オープン初日なのだから念入りにしたいが、左足をかばいながらなので正直辛い。
先ほどからあえて見ないようにしていたが、チラリと向かいの弁当屋を見ると、客はおらず、店に立っている光希と目が合う。朝はさすがの光希ファンも長居はできないのだろう。
悠多は軽く頷くだけの挨拶をする。ところが、相手は無視した。今まで1度もそんなことがなかったから、悠多はむっとする。弁当屋に背中を向け、昨日もらった商店会の豪華な花のスタンドの位置を調整する。普段ならそれ程でもないのに、その重さが左足の負担になり、痛みに顔を歪める悠多。
「ひゃっ」
思わずそんな声の出た悠多は驚いて振り向く。頬に冷たい何かを当てられたから、無理もないのだが。
光希が笑顔で立っている。手には湿布を持ち、ひらひらと降っている。
「お前なぁ」
「足やっちゃったんだろ?」
「い、いや…別に大したことねーよ」
「嘘だ。店から見ててもわかった。ほら、貼りなよ」
「……」
「うちじゃ使わないからさ。あげる」
外では貼れないので、事務所に入る雄多。光希もついてくる。店があるだろうと言ったが、父さんに頼んできたからいいと言うのだ。
悠多が靴下を脱ぎ湿布を貼っている間、光希は初めて入った事務所を物珍しそうに観察している。
「なんで草履?」
事務机の脇に用意しておいた雪駄を見て、不思議そうな声を出す光希。
「雪駄だよ」
「ああ、雪駄か。演劇の衣装?」
「ちがう、俺が履く」
「悠ちゃんのなのか。履いていい?」
「あ? 別にいーけど」
なんだ、光希のやつ、子供みたいだなと悠多は思う。
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