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松本の言葉は本心からのものだろうか? おそらくは、本心だろう。役者は、役者の仕事だけではまず食べていけないから。だけど……
悠多が松本の言葉を疑ってしまうのは、敗北感と隠された嫉妬のせいだった。
松本と悠多は研究所の同期である。
劇団 紺碧座の研究性となった悠多や松本達は、2年間の俳優修業の為、様々な授業、レッスンを受けた。めまぐるしく充実した日々を送るが、それが終わる時、残酷な現実が待っていた。
一体誰が、正式な劇団員として残れるのか? そのことは、時に真剣に時にふざけて皆が話題にしてきた。毎年、1名か2名の狭き門だということは皆が承知していた。
当初40名いた同期がいつしか35名に減り、A班、B班に分かれて上演された卒業公演の終演後に、それの発表はあった。
松本の名前が呼ばれた時の衝撃は、後に何度も同期達の話題となる。
輝かしい劇団員の座を手に入れた松本は同期の中で一番若く、容姿は中の上程度、身長は平均よりやや低いくらい、しかも卒業公演ではそれほど大きな役を演じたわけでもなかった。
そのため、皆の動揺は非常に大きかった。特に主役を演じた女はその場で泣き崩れ、しばらく立てないほどであった。もちろん、他の者達も心の中で悔し涙を流していたのだけれど……
悠多がまさに走馬灯のように、研究所時代のこと、劇団員の発表で松本が呼ばれた時のことを思い出していたとき、屈託なく松本が呼びかけた。
「悠多さん?」
「ん、ああ」
「観てくれました? テレビ」
「ああ、観たよ。出てたね。すごいじゃん。人気の刑事ものだろ?」
「大塚さんがプロデューサーに俺を押してくれたみたいで」
「へえ、そうなんだ」
大塚さんとは、誰もが知っている俳優だ。テレビでも映画でもよく観る顔。演劇に興味がなければ、テレビに出ている俳優がどこの劇団の所属であるか、まったく関心もないだろう。大塚は劇団 紺碧座所属のベテランである。
ベテラン俳優が自分が出演するドラマに所属劇団の若手を推薦し、出演が決まることはよくあるようだった。
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