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「明日開店でしょ。だから」  花籠を悠多に押し付けるように渡して、光希ははにかむように笑う。  ふっ、と幼い頃の光希のかわいらしい顔がフラッシュバックし、悠多は頭を振って目を逸らす。胸元の花籠に目をやると、可憐な花の数々がおしゃれにアレンジメントされており、立てられた紙札には「祝 開店 シアタースイート東京様 BENTO YOSHINOより」と記されている。開店祝いの花籠というわけだ。 「開店おめでとう!」 「お、おう。ありがと。けど、店じゃねーから開店じゃなく、オープンだな」 「劇場は店じゃないか。はあ、けど、悠ちゃんが、劇場の…なんて言うの? 店長みたいな」 「ああ、支配人って言いたいとこだけど、それは東京とかのおっきな劇場の場合だな。うちみたいなのは、いわゆる小劇場に分類されるから、劇場主(こやぬし)ってとこか」 「こやぬし? なんか、って変だね」 「劇場って書くけど、なぜか〝こや〟って読ませるんだよ。昔は芝居小屋とか言ってたからかもな」 「へえ」  受付の一番目立つ場所に、花籠を置く悠多。満足そうにそれを眺めて光希が言う。 「うちの花が一番のりだな」 「お前なぁ。…おじさんとおばさんによろしく言ってな」 「うん。今2人で熱海に行ってるよ」 「へえ、そうか。仲いいな。」 「悠ちゃんが帰ってきて、喜んでるんだ2人とも」 「え、そうなのか?」 「もちろんだよ」  内心嬉しいのだが、同時に苦い思いが悠多を無口にさせる。光希は親孝行している。だけど、俺はどうだ。出来なかったじゃないか……  光希は自分の両親がいかに喜んでいるかを説明するが、悠多の表情が次第に曇っていくことに気づいた。 「悠ちゃん?」 「あ、わるい」  その時、外から威勢のいい男女の声が聞こえてくる。 「ガハハッ。シアタースイート東京様、お届け物でーす、って、おいおい」 「うっわぁ、東京? きゃはは」    
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