34人が本棚に入れています
本棚に追加
「明日開店でしょ。だから」
花籠を悠多に押し付けるように渡して、光希ははにかむように笑う。
ふっ、と幼い頃の光希のかわいらしい顔がフラッシュバックし、悠多は頭を振って目を逸らす。胸元の花籠に目をやると、可憐な花の数々がおしゃれにアレンジメントされており、立てられた紙札には「祝 開店 シアタースイート東京様 BENTO YOSHINOより」と記されている。開店祝いの花籠というわけだ。
「開店おめでとう!」
「お、おう。ありがと。けど、店じゃねーから開店じゃなく、オープンだな」
「劇場は店じゃないか。はあ、けど、悠ちゃんが、劇場の…なんて言うの? 店長みたいな」
「ああ、支配人って言いたいとこだけど、それは東京とかのおっきな劇場の場合だな。うちみたいなのは、いわゆる小劇場に分類されるから、劇場主ってとこか」
「こやぬし? なんか、こやって変だね」
「劇場って書くけど、なぜか〝こや〟って読ませるんだよ。昔は芝居小屋とか言ってたからかもな」
「へえ」
受付の一番目立つ場所に、花籠を置く悠多。満足そうにそれを眺めて光希が言う。
「うちの花が一番のりだな」
「お前なぁ。…おじさんとおばさんによろしく言ってな」
「うん。今2人で熱海に行ってるよ」
「へえ、そうか。仲いいな。」
「悠ちゃんが帰ってきて、喜んでるんだ2人とも」
「え、そうなのか?」
「もちろんだよ」
内心嬉しいのだが、同時に苦い思いが悠多を無口にさせる。光希は親孝行している。だけど、俺はどうだ。出来なかったじゃないか……
光希は自分の両親がいかに喜んでいるかを説明するが、悠多の表情が次第に曇っていくことに気づいた。
「悠ちゃん?」
「あ、わるい」
その時、外から威勢のいい男女の声が聞こえてくる。
「ガハハッ。シアタースイート東京様、お届け物でーす、って、おいおい」
「うっわぁ、東京? きゃはは」
最初のコメントを投稿しよう!