4人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ……だからアタシ言ったじゃない。そんなろくでもない奴とは別れた方が良いってさ」
「言った、確かに言ったわ。だけど今度こそ浮気だけはしない人だと思ってたのよぅ。あと顔が好きだった」
しくしく、両手で顔を覆い膝から崩れ落ちた。
そんな幼なじみの呼び出しに、駆けつけた女が呆れたように大きく息を吐いて見下ろす。
よれた小花柄のワンピースから真っ白な肢体、青あざや真新しい真っ赤に腫れた箇所が痛々しく、思わず眉根を寄せてしまう。
それから緩やかにカーブする色素の薄い髪。前は長く綺麗に伸ばしていたが、短い方が簡単に掴まれなくて済むと今は肩につくかどうかで。
全てがか細く、また薄幸な女はその見た目通り不幸ばかりを身にまとっていた。
「そんなこと言ったってね。お金を集って、気に食わないことがありゃ手をあげるんじゃない。犬だって危険を察知して噛み付くね」
「犬だって……意地悪な言い方」
「蝶子アンタはね、一生壊れた貯金箱か上等な財布なんかに見られていたよ」
そんな風に手当をしながら散々と説教をすれば。
薄幸な女、蝶子は二三度頷き、
「そう、そうよね。今日なんて誕生日プレゼントを渡したいからって呼ばれたの。しわくちゃなスーパーのビニール袋を渡されて……中身、何だったと思う?」
「そうねぇ……」
中身を想像しながら丁度近くにあった、腰の高さほどの冷蔵庫からビールを二つ取り出し、未だにキッチンの床へとへたり込む蝶子へ差し出す。
「ありがとう、喉乾いてたから」と素早くプルタブを起こして倒し、半ばヤケになったように喉を鳴らした。
あら良い飲みっぷり、と釣られて缶を煽れば、「ぷはっ」と息を漏らして。
「そうそう中身ね、半額シールの付いたケーキ? まだ良い方ね……ああ、ビールの空き缶とぼろ負けした賭け事の外れ券じゃない?」
「そんなの、まだ良いわよっ」
散々弱々しくしていた蝶子が徐に立ち上がり、持っていた缶を握り潰すと、汚ったないシンクへ投げ捨てる。
冷蔵庫から二本目のビールを手に取り振り返った。
「下着よ。真っ赤で下品なデザインの、紐みたいな下着。腰のタグの印字が薄れたね!」
「うわ、ろくでもない……」
【⠀今日という素晴らしき日。 】
最初のコメントを投稿しよう!