今日という素晴らしき日。

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「はぁ……だからアタシ言ったじゃない。そんなろくでもない奴とは別れた方が良いってさ」 「言った、確かに言ったわ。だけど今度こそ浮気だけはしない人だと思ってたのよぅ。あと顔が好きだった」 しくしく、両手で顔を覆い膝から崩れ落ちた。 そんな幼なじみの呼び出しに、駆けつけた女が呆れたように大きく息を吐いて見下ろす。 よれた小花柄のワンピースから真っ白な肢体、青あざや真新しい真っ赤に腫れた箇所が痛々しく、思わず眉根を寄せてしまう。 それから緩やかにカーブする色素の薄い髪。前は長く綺麗に伸ばしていたが、短い方が簡単に掴まれなくて済むと今は肩につくかどうかで。 全てがか細く、また薄幸な女はその見た目通り不幸ばかりを身にまとっていた。 「そんなこと言ったってね。お金を(たか)って、気に食わないことがありゃ手をあげるんじゃない。犬だって危険を察知して噛み付くね」 「犬だって……意地悪な言い方」 「蝶子(ちょうこ)アンタはね、一生壊れた貯金箱か上等な財布なんかに見られていたよ」 そんな風に手当をしながら散々と説教をすれば。 薄幸な女、蝶子は二三度頷き、 「そう、そうよね。今日なんて誕生日プレゼントを渡したいからって呼ばれたの。しわくちゃなスーパーのビニール袋を渡されて……中身、何だったと思う?」 「そうねぇ……」 中身を想像しながら丁度近くにあった、腰の高さほどの冷蔵庫からビールを二つ取り出し、未だにキッチンの床へとへたり込む蝶子へ差し出す。 「ありがとう、喉乾いてたから」と素早くプルタブを起こして倒し、半ばヤケになったように喉を鳴らした。 あら良い飲みっぷり、と釣られて缶を煽れば、「ぷはっ」と息を漏らして。 「そうそう中身ね、半額シールの付いたケーキ? まだ良い方ね……ああ、ビールの空き缶とぼろ負けした賭け事の外れ券じゃない?」 「そんなの、まだ良いわよっ」 散々弱々しくしていた蝶子が徐に立ち上がり、持っていた缶を握り潰すと、汚ったないシンクへ投げ捨てる。 冷蔵庫から二本目のビールを手に取り振り返った。 「下着よ。真っ赤で下品なデザインの、紐みたいな下着。腰のタグの印字が薄れたね!」 「うわ、ろくでもない……」 【⠀今日という素晴らしき日。 】
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