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その日、蝶子は三枚のワンピースをベッドへと並べて思案していた。
二十一になる自身の誕生日に、愛する恋人から呼び出されたのだ。
こんなことはお付き合いして二年ほどになるが、初めてのことだったので、もう前夜から舞い上がっている。
職を転々とし、最近ではもはや探すことすら諦めている人。酒や賭け事に溺れては「学生時代は自分に適う者などいなかった」、「今は社会というものの様子を窺っているだけ」、「そんな自分は人に使われる側なんて許されるわけがない」といつもの寂れた飲み屋で上機嫌になっている姿も、精算だけに呼び出されても可愛いと思っていた。
「んー、春らしく淡い緑かしら。いえ、少女のような瑞々しさの水色……。やっぱり可憐な黄色の小花柄よね!」
姿見に肩を合わせながら裾をヒラヒラとさせ、くるりと一回転、今にも踊り出しそうな気分だった。
映る膝には擦りむいた跡、腕は鬱血痕が残り痛みを感じていたが、決して浮気などしない。
いいや、出来ないのだ。
蝶子も分かっていた。
〝誰もあんな人を選ぶ者など居ない〟
自分だけがこの世で認め受け止めてあげられる存在であり、ただ虚しい日々を送っている恋人の女神役なのだから。
「うんと可愛い私で祝って貰いたいわ」
鼻歌交じりに小物まで合わせ始めた。
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