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真っ赤なネイルを塗りながらトータルコーディネートを当日まで悩みあぐねて、漸く満足した。
部屋は散らかったものの、ご機嫌で早朝からシャワーを浴び、いつもより高額なパックを顔に貼り付け、好きな音楽を流しながら全身に保湿クリームを塗る。
メイクを施してから丁寧にドライヤーを当ててムースを髪に揉みこみセットした。
小さく華奢なバッグには心踊りながら持ち物を入れ、小花柄のハイウエストワンピースに細い赤のベルトが、ぼやけた印象を与えない。「やっぱり上品で可憐だわ」とコロンを二振り、いや三振り。
そうして予め出しておいた靴に足を入れた。
脇の靴箱に置かれた可愛らしいデザインの鏡でリップを塗り、唇を擦り合わせて「ぱっ」と鳴らすと、「私って本当に可愛い」なんて言い聞かせてから恋人の家へと向かうのだ。
本当は一緒に、同棲をしたいと願い出たが、「もう少し金を稼げるようになったら迎えに行く」と言われたので仕方ない。
目当ての駅で降り、子慣れた様子で改札を抜けて、手を上げたかったが。
「だめ、節約よ節約」
なんて言って。徒歩四十五分かけて、恋人の待つアパートへ。
疲労を感じる重いふくらばきを無視し、錆びれた階段をカンカンとヒールを鳴らして、ビーッというインターホンが部屋奥で聞こえる。
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