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『おい、干物。週明け打ち合わせが入ったから絶対に休むなよ! この打ち合わせは最優先事項だからな。死んでも這ってでも来いよ!』
美琴の脳裏には部長の相馬忠文の鬼のような顔が浮かんでいた。
「あんなに念を押されてたのに……これじゃあ、ここで一人寂しく死んだって、線香の一本も供えてもらえない……くそぅ」
美琴は叫び地団太を踏もうとして、慌てそれをやめる。
そうだった足は宙に浮いていたんだ。
「まさか! これって走馬灯?! いやだー! 最後に思い出すのが部長の顔だなんて嫌だよー」
そうこうしている内に、いよいよ手汗が尋常じゃない程溢れてくる。
もう指先の感覚はほとんど残っていない。
「あぁ……さらば、私の人生……」
「一度でいいから、恋がしたかったぁー……」
そして美琴の手は、掴まっていた木の根っこからするりと落ちた。
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