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「よかったよう。もう肝を冷やしたんだからね」
美琴を覗き込んでいたのは、この店の人だろうか。
エプロンをかけた70代くらいの、人の良さそうなふくよかな女性は、目尻を下げてほっとため息をついた。
「あんた、滝つぼの近くで落ちかけてたんだよ。覚えてるかい?」
おばちゃんは和かに笑いながら、大きなやかんを持ち上げ湯呑みにお茶を注いだ。
「確か……滝つぼが見えて、興奮して身を乗り出したら足が滑って……」
美琴は、ぼーっとする頭に手をやりながら、記憶を辿っていく。
「あそこは本当に危ないんだよぅ。一人でなんか来るもんじゃないのに……」
おばちゃんは、やれやれといった顔をする。
「すみません……」
美琴はしゅんとして、頭を深くうなだれた。
「あれ?! そういえば、なんで私ここにいるんですか?!」
美琴は下げた頭をぱっと持ち上げる。
記憶は明らかに、途中からぷっつりと途切れているのだ。
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