シェフを呼んで

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シェフを呼んで

 「シェフを呼んで。」  ランチタイムが終わりかけ、人混みのピークが過ぎた頃、1人の女性がそう言った。  「か、かしこまりました。」  アルバイトのウェイターが早歩きで厨房に戻りだす。目線の先にいるのは俺だ。そう、女性が食べているランチを作っていたのは俺なのだ。  俺がシェフを目指すようになったのは、高校生の頃に見たドラマの影響だった。主役のシェフは、新人の頃失敗ばかりでクビになりかけたが、最終的にそのレストランの中心のシェフになるストーリーだった。その中で1番印象的だったのが、高級レストランによく足を運ぶお客さんに呼ばれて料理の味を絶賛されるシーンだ。  残念ながら、このレストランで働き始めて9年になるが、一度もその機会は無かった。やっぱりドラマの中の出来事かと諦めかけていた。しかし、これから夢が叶いそうだ。  「どうしたんですか。」  周りに声をかけられ、ハッとした。過去を振り返っている場合ではなかった。呼ばれているんだから早く行かなければ。慌ててお客様のもとに向かった。  「お客様、いかがなさいましたか?」  そう聞きつつ、もう俺の顔には自然と笑みが溢れていた。  
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