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悠久の刻を君と
その後、健悟の強い希望で沼田城趾公園に、御殿桜を見に行く私達。
けれど、出発前に飲み物を買いに行くふりをして、私はある場所に立ち寄った。
無論、健悟には秘密だ。
しかし、聡い健悟は、何となく私が何かを隠しているのを察していた様で――車で沼田に向かっている間中、質問攻めにされ、私はとても大変な思いをした。
「なぁなぁ?何処寄ってたんだよ?」
「ほんとは、どっか行ってたんだろー?」
「……何で教えてくれないんだよぅ。優のばーかばーか!意地悪!」
沼田城趾公園に着いた頃にはすっかり拗ねて頬を膨らませてしまっていた健悟をどうにか宥め、私達は御殿桜の下へと向かう。
駐車場から歩いて数分。
初めて見た御殿桜は、生きてきた悠久に近い年月を感じさせる様な雄大さで――私達は一瞬にして目を奪われる。
「凄いね……」
「ああ……」
暫し、言葉もなく、ただ夕陽に照らされる御殿桜の壮麗な姿を見つめる私達。
と、不意に健悟が私の肩に、こてんと自分の頭を預けて来た。
そんな健悟の様子に、今が良い機会だと私は覚悟を決める。
そうして、私はズボンのポケットから小さな包みを取り出した。
「ねぇ、健悟?」
不意に話し掛けられ、きょとんとした顔で私を見上げる健悟。
私は、そんな幼なじみに、微笑みながら、言葉を続けた。
「私は、弱くて、優柔不断で……思い込みも激しいし、嫉妬深い、とても最低な男だけれど。これからも……一生傍にいて欲しい」
――私には、君しかいないんだ。
そう話し掛けながら、手元の包みを開け、中に入っていたものを健悟に差し出す私。
それは、健悟がプレゼントしてくれた『昼の御殿桜の指輪』と対になっている『夜の御殿桜』――夜桜の宇宙ガラスが嵌まった指輪だった。
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