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西暦2XXX年。この世界は、深刻な食糧不足に喘いでいた。不毛な土地が増えたこともそうだが、一部の国や地域で空前のベビーブームが起きたということもある。
現在の地球の人口は、おおよそ二百億人。
科学が発展し、多くの工場で人工的な食糧が大量生産されるようになったとはいえ。人が住める土地には限界があるし、生産も充分に追いついているとは言えない状況。人々は、ついに究極の選択を迫られる状況に陥っていたのだった。
つまり、人口を無理にでも減らさなければいけない、と。
食い扶持が減れば、その分食糧も増える。そして、人が住んでいる場所を田畑にすれば一気に食糧の供給も増やせるようになる、という非常にシンプルな考え方だった。
しかし、人々が安定した生活を送れるようになるためには、この二百億の人口が最終的に百八十億人にならないと難しいという見込みである。二十億人もの人間を、短期間で減らす方法など限られているだろう。それこそ、人道的な、という枕詞がついてしまった場合不可能と言わざるをえまい。
世界中のどの国も当然のように言った。自分の国の人間から犠牲を出すのは嫌なので、他の国がなんとかしてくれ――と。
特に一国で三十億人の人口を抱える某大国は、自国民からは“殆ど”人減らしなどしたくないと最初にのたまってきた(殆ど、というのは貧富の差が激しい国であるため、最下層の人々を多少減らすくらいなら構わないからというのであろうが)。自分の国なんかより役立たずの国、人間はいくらでもいる。そいつらからどうにかするのが当然だし、特にろくな生産性もない発展途上国がいくつ潰れても問題なかろう、そっちの人間から減らしたらどうだ、と。
『おい!いくら超大国のトップでも、言っていいことと悪いことがあるぞ!!』
『そうだそうだ!あんたは我々発展途上国に、国ごと消滅しろとでも言うつもりか!三十億人も食い扶持を消費しておきながらなんて言いぐさだ!!』
自分は犠牲になりたくない。
だから代わりに、己が“もっと役立たず”だと信じる別の誰かに犠牲を押しつけたい。
先進国は発展途上国こそ足手まといだと言い、発展途上国はお前らに石油や労働力を提供してきたのは誰だと思っているのかと反発する。
既にそんな議論をしている場合ではなく、全ての国が少しずつ人口を“短期的に”減らす努力をしなければ、世界全体が滅ぶ段階に来ているというのに。
もはや、一刻の猶予もなかった。――トドメが、とある国の食糧生産工場が、火山の噴火によって無期限の稼働停止に追い込まれたこと。世界の人口食料のうち3パーセントを担っていたその工場がやられたことは、世界の寿命を確実に縮める結果にしかならなかった。
――ああ、畜生、畜生。
僕はタブレットを前に、ガリガリと頭を掻いた。教授が立ち去って、真っ白な面談室には自分一人が取り残されている状態である。
そのタブレットは、とある“悪魔の兵器”と連動しているものだった。このタブレットを操作するだけで、ある人工衛星を操作することができるのである。
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