アオハルは上ったり下りたり

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そうして、2週間が経ち、卒業式を翌日に控えたその日、事件は起きた。 いや、事件じゃない、事故だ。 私が仲良しのアユと通学路の堤防を自転車で下校している時、不意に草むら何かが飛び出した。 「わっ! なに!?」 驚いた私が声を上げると、アユが 「イタチ!」 と叫んだ。 イタチ!? 初めて見た! 私は慌てて、通り過ぎたその影を追って反対の草むらに視線を投げる。 と、その時、ガタッとハンドルが下がった。 えっ、なに? 気づいた時には、ズザザザッと堤防を自転車ごと滑り落ちていた。 「いったぁぁ」 セーラー服のスカートから伸びたむき出しの脚がすり傷で血だらけになっている。 「佳音(かのん)! 大丈夫!?」 アユは驚いた声で、心配そうに堤防の上から叫ぶ。 「うん、大丈夫」 そうは言ったものの、痛くてなかなか立ち上がれない。 アユは堤防の上に自転車を停めると、私が滑り落ちた斜面を降りて来てくれた。 「佳音、大丈夫?」 佳音は私の上に乗っている自転車を起こしてくれる。 「とりあえず、自転車だけ上に持ってくね」 そう言って鞄を後ろの荷台に括ったままの自転車を、重いのに上まで1人で引き上げようとする。 「あ、私がやるよ」 そう言って手を伸ばし、ハンドルを掴もうとした瞬間に、右手に激痛が走った。 「っつっ!」 私は、息をのんで右手を引き、左手で抑える。 「ちょっ、佳音、大丈夫!?」 アユは、慌てたようにそこの斜面に自転車を横倒しにしておくと、自転車を跨いで歩み寄り、私の隣にしゃがみこんだ。 「右手? どうしよう? 自転車で帰れそう? それとも、私、佳音の家まで行ってお母さん呼んで来ようか?」 アユは心配そうに覗き込む。 その時、アユの頭越しに、自転車でこちらに近づいてくる玲音(れおと)が見えた。 「アユ、玲音(れおと)を呼んで! 早く!」 反射的に私の視線を追ったアユは、 「ちょっと待ってて」 と言いおくと、再び自転車を跨いで、土手を駆け上がる。 「玲音(れおと)くーん!」 アユは大声で叫ぶと、両手を大きく広げて玲音に向かって振った。
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