アオハルは上ったり下りたり

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車で迎えに来た母と、そのまま病院に向かったところ、幸い、骨には異常なく、2週間ほどで治る捻挫だと診断された。 そして、翌日、早めに登校した私は、玲音と共に職員室の水野先生を訪ねる。 いつも通りにこやかに現れた水野先生だったけど、私の手首に巻かれた包帯を見て表情が一変した。 「佳音! どうしたの!?」 私は昨日の下校中の出来事を説明する。 「でね、先生、今日の伴奏、玲音にやらせてほしいの」 私は1番大切なことを伝える。 「えっ?」 水野先生は、驚いたように、私と玲音の顔を見比べる。 「聴いてくれたら、分かるから! 玲音は私よりずっと上手いの!」 私は、水野先生に分かって欲しいせいか、声のトーンがいつもより上がっているのが分かる。 「佳音の言うことは分かるけど、松浦くんがピアノを弾けるなんて初耳だわ」 確かに玲音は学校では、全くピアノは弾かないし、部活だってバレー部だ。 ピアノを弾くことを考えたら、普通は選ばないスポーツ。 「コンクールでは、いつも玲音の方が成績がいいんです。私はいつも玲音の下」 一度くらい玲音に勝ちたいとは思うけど、玲音のピアノを聴いてると、そんなことはどうでもよくなるから不思議。 「んー、とりあえず、聴かせてもらおうかしら。今から、体育館に行きましょ」 そう言うと、水野先生は職員室の中に戻り、ピアノの鍵を持って戻ってきた。 体育館でピアノを準備し、先生はステージを降りる。 体育館の真ん中に立つと、 「松浦くん、弾いてみて」 と声を掛けた。 玲音は、すぅっと大きく息を吸うと、今度はふぅっと息を吐き、鍵盤に手を置いた。 一夜漬けとは思えない見事な音色が静まり返った体育館に響き渡る。 演奏を終えると、水野先生から大きな拍手が起こった。 「ほんとにこれ、一夜漬け?」 先生が尋ねる。 すると、玲音は苦笑して言った。 「まさか。佳音のピアノがいいから、前から家でずっと真似して弾いてました」 はぁ!? そんなこと、昨日は全然言ってなかったじゃない! 憤慨したい気分の私だけど、そこはグッと堪えて無言で隣でたたずむ。 「じゃあ、本番の動きだけ、練習しましょう。まず、いつ席を離れるんだっけ、佳音?」 尋ねられて、私は、式中の伴奏者の動きを説明する。 それを言われるままに玲音はやってみせる。 そうして本番、玲音は見事に伴奏をやり遂げた。
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