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「貴方は王に向かって何故あのような態度を?」  所々に鉱石が生えた美しい回廊をスクナセスとフェルは歩いていた。スクナセスが先頭を歩き、後ろから少し離れてフェルが続く。  王城には騎士団が控える宿舎が建てられている。人員が一番少ないウゾルク騎士団の宿舎は小さく、王城から遠い。それぞれ王の住まう王城に直接繋がるように廊下が伸びていた。 「私は王に仕えるためでも、国を守るために騎士になったのではないからです」  少しも言い淀むこともなくすっぱりと言い切った少女にスクナセスは言葉を失った。そして後から深いため息を吐く。 「これはまた……。今までに類を見ない問題児ですね。本当にあの自尊心の高いウゾルクの民なのですか?そのような怠惰な精神で騎士になられては困るのですが」 「私も好きでここに来たわけではありません。正義の剣に選ばれたから……」  フェルは恨めしそうに自らの腰に下がっている大型の剣を見下ろす。スクナセスはその少女に不釣り合いな剣を見て眉を顰めた。 (何故剣は彼女のような人物を選んだ?)  スクナセスは1人、深く思考し始めた。  ウゾルクの民は元々剣を造る民族だった。ウゾルクという小さな集落は山脈に程近い、森林地帯に位置する。鉄資源が豊富で太古より良質な武器が造られた。そのため「ウゾルクの武器には神の加護がある」と噂され重宝されたほどだ。  その中でも『正義の剣』は別格だった。デステアルナ国の窮地を救ったという伝説の武器だからだ。普段はウゾルクの神子(みこ)が管理しているという。  また、ウゾルクには不思議な風習があった。それは年齢に達した子供に武器を与えるというものだ。武器を与えるだけではない、剣術も教え込まれた。  その中で腕の立つ子供は騎士へ、それ以外は剣を製造する者へと選別される。ウゾルクの集落の中で行われる御前試合で一番だった者、かつ神子の許しを得た者が『正義の剣』を拝命することができた。  これまでに幾度も『正義の剣』はデステアルナの窮地を救ってきた。スノウフ国が攻めてきた時、領主同士の争いが絶えなかった時……。国が揺れ動く時、この剣の存在がある。ここ数百年、正義の剣を見ることはなかった。 (突然現れた正義の剣の持ち主は吉兆の表れか?それとも凶兆か……?) 「宰相様も王様もウゾルクの民のことなんか邪魔者としか思っていないのでしょう?あの叙任式で誰一人私達を祝福している者はいなかった。いつまでもしきたりに囚われているとは新王も大したことのない人物なのでしょう」  深い思考から這い上がって来たスクナセスは目を見開く。ウゾルクは昔ほど資源が取れない。他の採掘場が見つかり、ウゾルクの存在価値は下がっていた。  爆鉱石(ばくこうせき)という新しい資源が見つかるとウゾルクは窮地に立たされた。爆鉱石は、他の鉱石と掛け合わせることで爆発を起こす。その力を利用し球状の弾を飛ばす武器、ボルチャーの登場により剣の価値も下がっていった。  ウゾルクが貧しくなっても人々の自尊心は損なわれなかった。寧ろ自尊心ばかりが高くなっているように見える。  しきりに「かつて国を救ったウゾルクの民」と叫んでいるのだ。フェルはそんな集落のあり様に辟易(へきえき)しているようだった。  過去の栄光に縋るしかなくなった集落を憂う少女の気持ちは分からなくもないがそれとこれとでは話が違う。すでにスクナセスの怒りは頂点に達していた。声を震わせてフェルに確認を取る。 「今……。王のことを侮辱したのでしょうか?」 「そのようなつもりはありませんが。ただ事実を述べたまでです。そう聞こえてしまったのなら申し訳ありません」  見張りの近衛兵が控える大部屋の前でフェルとスクナセスは暫く睨みあっていた。一触即発の雰囲気を打ち破ったのは扉が開く音だった。 「何してる?早く入らないか」  扉を開けたのは誰でもない。イザリオ王だった。
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