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「叙任式ぶりだな!フェル」  叙任式とは打って変わり、ゆったりとした服装のイザリオ王が姿を現す。太陽の如き眩しい笑顔に喧嘩腰だったフェルとスクナセスの無言の応酬が止まる。 「スクナセスもご苦労だった!政務時間外だっていうのに」  イザリオの労いの言葉に冷静沈着なスクナセスに戻った。 「いいえ、イザリオ様の命とあらば。それよりも私はこの者を任命するべきではないと思うのですが」  そう言ってフェルに冷たい視線を寄越す。 「スクナセスがそんなことを言うなんて珍しいな。まだ決定するのは早いんじゃないか?因みに俺は適任だと思う」 「……任命?適任……一体何のことですか」  フェルが疑うような眼差しをイザリオに向ける。イザリオは悪戯を思いついたような笑顔を浮かべて言った。 「外は冷える。とりあえず執務室に入ってくれ」  執務室は整然としていて紙とインクのにおいが充満していた。部屋は水晶のランプで照らされており、全体的に落ち着いている。煌びやかな広間とは雰囲気が大きく異なった。 「単刀直入に言おう。フェル、お前を『王の騎士』に任命したい」 「……は?」  叙任式での(とが)めを受けるのかと思い腹を括っていたフェルは目を(またた)かせた。ウゾルク騎士団が王の隣に立つのは数百年ぶりだ。  王の騎士とは王の身辺警護の役目を担った職であり、最も信頼のおける騎士が就任する。かつては騎士団の統率も図り、政に関しても権威を持っていたらしいが現在は名誉職に留まる。あくまでも王の警護と世話係なのだ。  王の騎士になる者は王直属の騎士であるアイオス騎士団が殆どだった。異例の出世話にフェルは不服そうな表情を浮かべる。 「イザリオ様、お言葉ながら……つい先ほどこの者から王に仕える気も国を守る気もないと伺いました。ついでに王はしきたりに囚われ何の期待もできない王だと評しております。それでもこの者を欲しますか?」  フェルの心情をスクナセスが代弁する。その言葉を聞いたイザリオは何が面白いのか、声を上げて笑い出した。自分が侮辱されたというのに怒るどころか喜びさえ感じ取れる王にフェルの顔は引き攣る。厄介な者に目をつけられてしまったようだ。 「威勢が良くて結構!それなら敢えて問おう、お前が騎士になったのは何故だ?」 「私は……。魔獣を滅ぼすために騎士になりました」  フェルは真っすぐにイザリオを見て答える。吊り上がった水色の瞳からは殺気と激しい怒りが感じ取れた。並々ならぬ気迫にイザリオは真剣な顔つきに戻る。  魔獣の姿は狼や鳥、熊など、自然の動物を模したものだ。通常の獣よりも巨大で凶暴だった。獣とは比にならないほどの力を持つという。  「魔獣を滅ぼす」と口にすれば笑い者にされた。何故なら現在において魔獣は恐れるようなものではないのだ。神代程の力もなく、数もいない。殆ど野生の獣と化していた。わざわざ探し出して殺そうなどと思う者はいないのだ。 「私の両親は魔獣に殺されました。私は奴らを全て探し出して殺し尽くす。そのためにここにいます」  フェルの瞳は先ほどよりも険しさを増す。
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