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(魔獣が他にも出没してるなんて……)  王の執務室から戻る間、フェルはずっと腕組をして考えていた。薄暗くなった回廊を一人歩く。点々と配置された発光する鉱石が足元を照らした。 (あの新しい王、気に入らない。何もかも自分の思い通りになるというあの自信が鼻につく)  フェルは会って間もないイザリオのことを毛嫌いしていた。それは二人の性質が思いきり逆だからだ。イザリオが明るく爽やかで人との交流を好む性質であるのに対しフェルは一人でいることを好み、他人の干渉を嫌う性質だ。 (あんなに良い顔をしているがあの王には黒い噂がある。権力者は皆腹黒い生き物だ。人の耳に心地良いものを並べて自分に都合のいいように動かそうとする。警戒しておこう)  胡散臭いイザリオの笑顔を振り払う。フェルへかけた数々の言葉は偽りに違いないと考えた。  ふと、背後から気配がして振り返る。何もないことを確認すると再び前を向いて兵舎へ足を急いだ。  前方の柱の影から人が飛び出してきた。  フェルは思わず正義の剣のグリップを握り構えの体勢を取る。目を凝らして目の前の人物が誰なのか様子を伺った。 「フェル!随分遅かったけど大丈夫?」 「何だ……デュランか」  見慣れた顔にフェルは緊張感を弱めた。剣のグリップから手を離す。 「デュランが規律を破るなんて珍しい。もう就寝の時間だろう?」 「そりゃあ……フェルのことが……心配だったから。それで?呼び出しの理由は?」  二人は夜の回廊を歩き始めた。ウゾルク騎士団に宛がわれた兵舎へ向かう。 「……王の騎士になることになった」 「え?ちょっと……それ、どういうこと?」  大きくなってしまった声を慌てて小さくしながらデュランが問いただした。 「なんていうか……勢いで。今は少し後悔してるけど王も魔獣のことを調査しているらしいんだ。それに協力することになった」 「イザリオ王が……魔獣を?」 「ここ数年、採掘場の周辺でも魔獣が目撃されてるらしい」  フェルが鋭い目つきで前方を見据える。それを隣を歩くデュランが心苦しそうに眺めた。 「また魔獣……か」 「本当に変な夢でも見せられてるみたいだ……。神秘なんてものは神が死んだとき全部なくなったんじゃないのか?」 「フェルってばまたそうやって。神にまで文句を言って……。いつか罰が当たるよ」 「デュランはまだ神なんて信じてるのか?馬鹿らしい!そんなの全部嘘だ。本当に神がいるのなら……私の両親が死ぬことはなかった」 「……」  フェルの底光りする瞳を見てデュランは黙り込んだ。  気が付くと扉に狼を突き刺した剣の紋章が描かれた部屋に到着していた。その隣に小さな小部屋があった。そこはウゾルク騎士団の物置で、女性の騎士が輩出された際、寝泊まりするように改築された粗末な部屋だった。今この部屋を使っているのはフェルだけである。 「見つからないようにな。デュラン」 「……うん。お休みフェル。良い夢を」  そう言ってデュランはフェルに力なく微笑んだ。フェルは一度も振り返ることなく小部屋の扉に消えた。
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