追憶のたこ焼き器

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追憶のたこ焼き器

 およそ20年前、多分そのくらい。初めて買った『たこ焼き用プレート』。初号器だ。  大好きなたこ焼きが自宅で無限に食べられるなんて、ほんと夢のよう♪  そんな夢の産物を持ち帰った夏の昼下がり。重量何キロあるのだろうか鉄のプレートは、──熱かった。  夏の暑さに鉄の熱さ。(おのれ)はバカかと気づくまで、汗の海に溺れていた。  あの日、私は早速鉄のプレートをガス台に乗せ火にかける。鉄板を熱板(ねっぱん)に仕上げ、油をなじませ、汗を垂らし、焼いてみた。  んが、上手くいかない。  あれ〜?  初日に用意した分は、なんとか焼き切ったが、暑さ熱さで体力の消耗が激しく、味は覚えていない。  それに暑さはそれだけで、空腹さえも満たしてしまう恐ろしきシステム。()(ざま)な食べ残し達は冷蔵庫に一時保管と相成った。  挙句に鉄の洗礼として、こびりつきが剥がれることなく、つけ置きとなる。乾燥もさせねばならない。  ああ、なんて面倒くさい。  すぐに洗いきれなかったもどかしさも、私の心を焦げ付かせる要因となった。  鉄のプレートは、私の再チャレンジ魂を打ち砕き、私自身によって、床下収納庫に軟禁されてしまった。  床下扉を開けるたび、目が合わないよう気づかないふりをし続ける。  そうして5年くらい過ごしたが、大掃除イベントで、奥の部屋の押入れの、さらに奥へと私自身によって、鉄のプレートは隔離されていったのだった。  日の目を浴びると思いきや、しまわれた悲しさ虚しさと言ったら、計り知れないものがあったろう。  哀れなり。  しかし、その5年後くらいには、本当のサヨナラがやってきてしまったのだ。断捨離マニアと化した私が、ついに手を下したのである。  教訓  自宅で、鉄は、難しい。
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