16人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
追憶のたこ焼き器
およそ20年前、多分そのくらい。初めて買った『たこ焼き用プレート』。初号器だ。
大好きなたこ焼きが自宅で無限に食べられるなんて、ほんと夢のよう♪
そんな夢の産物を持ち帰った夏の昼下がり。重量何キロあるのだろうか鉄のプレートは、──熱かった。
夏の暑さに鉄の熱さ。己はバカかと気づくまで、汗の海に溺れていた。
あの日、私は早速鉄のプレートをガス台に乗せ火にかける。鉄板を熱板に仕上げ、油をなじませ、汗を垂らし、焼いてみた。
んが、上手くいかない。
あれ〜?
初日に用意した分は、なんとか焼き切ったが、暑さ熱さで体力の消耗が激しく、味は覚えていない。
それに暑さはそれだけで、空腹さえも満たしてしまう恐ろしきシステム。無様な食べ残し達は冷蔵庫に一時保管と相成った。
挙句に鉄の洗礼として、こびりつきが剥がれることなく、つけ置きとなる。乾燥もさせねばならない。
ああ、なんて面倒くさい。
すぐに洗いきれなかったもどかしさも、私の心を焦げ付かせる要因となった。
鉄のプレートは、私の再チャレンジ魂を打ち砕き、私自身によって、床下収納庫に軟禁されてしまった。
床下扉を開けるたび、目が合わないよう気づかないふりをし続ける。
そうして5年くらい過ごしたが、大掃除イベントで、奥の部屋の押入れの、さらに奥へと私自身によって、鉄のプレートは隔離されていったのだった。
日の目を浴びると思いきや、しまわれた悲しさ虚しさと言ったら、計り知れないものがあったろう。
哀れなり。
しかし、その5年後くらいには、本当のサヨナラがやってきてしまったのだ。断捨離マニアと化した私が、ついに手を下したのである。
教訓
自宅で、鉄は、難しい。
最初のコメントを投稿しよう!