【ショート小説】今日から私はケンタウロス

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「ううぅ…… 草…… 草ぁ…… 」  うなされながら、朋美は目を覚ました。  一人暮らしのアパートで、日差しに顔を照らされた眩しさに覚醒していく。  今日は日曜日なので、仕事は休みである。 「ううん。良く寝た」  右手を布団に突いて、起き上がろうとする。 「んんっ? 起きられない…… 」  体が重くて、しかも足が上手く動かない。  半分寝呆けているので、夢の中なのかと思った。 「何だか喉が渇いたわ」  本格的に体勢を整え、起き上がることができた。 「あれっ? 天井が近い気がする…… 」  いつもの部屋が、俯瞰するように見えて、異常に気付き始めた。  足に妙な安定感がある。  そして軽やかに動く。 「私の下で何が起こったのか、知りたくないような…… 」  下半身に異常が起きていることは何となく理解したが、見る勇気が出て来なかった。 「誰かに相談したい」  このまま下を見ずに、友達に電話しようかと思った。 「待って! 落ち着いて! 私はどうかしているわ」  1人で興奮して、自分を叱咤する。 「ガッ ドカッ ゴトッ」  足元が硬くて、床が妙な音を立てている。  歩いてスマホに手を伸ばすと、静かに考えた。 「こんな時、誰に連絡を取るべきかしら。まず家族。親。でも心配かけそうだし、驚いて予想外の行動を取るかも知れないわね…… 」  考え込んで、つい下を見た。 「蹄!? 音の正体はこの蹄の音…… そして…… 4本あるわ」  段々と気分が落ち着いて来た。  冷静に状況を把握しようと、振り返ってみた。 「これは…… 馬の尻。しっぽ。4本の足。胴体は、おへその辺りまで人間のようね」  目に涙がこみ上げる。 「うっ。いけない。これは、何の間違いか分からないけど、私、馬になったんだわ。こういう時、人間はどういう行動を取るべきかしら」  冷静な判断力を持ち、信頼が置ける人を頭の中でイメージする。 「まずは、親友の妃奈ちゃんね」  飯村 妃奈子は、高校の同級生で、朋美と同じ25歳。  今でも時々一緒に出掛ける親友だった。  仕事、恋愛、私生活の悩みはお互いに包み隠さず話す仲である。  無料通話アプリで、電話をかけた。 「もしもし、朋美だけど」 「うん。今日は、天気が良さそうだから、ショッピングでもしようか」  明るい妃奈子の声に、思わずトーンを落として言った。
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