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1 依頼
わたしは古き佳き地球の模造惑星で、久方ぶりのまとまった休暇を満喫していた。文明の毒牙にかかっていない(という体裁の)、熱帯雨林の残る赤道地域でバカンスを思う存分楽しんでいたのである。
そこへ暗殺依頼請負人であるアーミテイジから量子トンネル通信が送られてきたので、なにもかも台なしになってしまった。気の進まないまま端末を操作して、アンシブルを開く。
「休暇中にすまんな日下部、次の仕事だ。おまえさんにお呼びがかかった」
アーミテイジは年齢不詳、どんなときでも無表情を貫くエージェントの鑑のような男だ。人の休暇を台なしにするのにいささかの痛痒も感じてる様子はない。
「惑星蓬莱に独裁者が誕生して5世紀になるのは知ってるな。連中、ついに我慢できなくなったらしい。おまえさんに独裁者を消してほしいんだそうだ。報酬は――」
動画を閉じた。報酬がどこの通貨でどれだけあろうとも、引き受けるつもりはなかった。
蓬莱では誰も死なないのだ。
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