涙の卒業ライブ

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 今日、僕は高校を卒業する。    パイプ椅子を時折、軋ませながら僕は式が進んでいくのを体感していた。    そして、卒業式も終盤に差し掛かったころ、厳かな雰囲気には、およそ似合わないポップな音楽が流れ始めた。   「こんにちわーー!!」    若い女性の重なった声が体育館中に響き渡る。   「7人組アイドル セブンスでーす!!この度はご卒業おめでとうございます」    7人組アイドル セブンス?最近テレビによく出ている人気アイドルグループだよな。なんでこんなところに?   「本日は、サプライズでやって参りました!皆さんご卒業おめでとうございます!」    なるほど、そういうことか。  ということは?    僕は後ろを振り返った。    在校生、保護者、その背後には、見たことがないくらい大きなカメラを担いだ人間が入ってきていた。    テレビ番組の企画か。おそらく、僕以外の生徒もそのことは察しているだろう。    そして、いつの間にか壇上のアイドルは歌い始めていた。    その歌はCMで聞いたことがあるような有名な曲だった。    なのでもちろん、「あ、この曲知ってる!」となった。    知っているメロディーと歌詞。  サビに近づくにつれて体育館は盛り上がっていった。    ライブによって先程までの厳かな空気は一変し、熱気を帯びた高揚感が一体となって体育館を包み込んでいた。        そして、その高揚感を認識できるくらいには、僕は冷えていた。    知っているメロディーと歌詞。  サビに近づくにつれて僕は「本日の主役」と書かれたタスキを少しずつ引きちぎられている気持ちになった。    そんな気持ちを胸に溜めながら、僕はライブを見届けていた。    そして、一曲歌い上げた後、アイドルは帰っていった。    卒業式後、話題はアイドルのことで持ちきりだった。   「ライブすごかったね」   「感動したよー!」   「まさかウチの高校にくるとはな」    誰も学校の思い出のことなんて話していなかった。    会場を出た後もライブの熱気は尾を引いて、学校中を満たしていた。    そんな熱気から逃げるように僕は学校を後にし、卒業を果たしたのだった。
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