水辺

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水辺

f0484a11-c8cb-42c9-b4fa-4d2a2f0dd572 学校のすぐ裏に 川が流れていた 夏になると皆 川で泳ぎ 遊んだ 親には秘密だったが 橋から川に 飛び降りる遊びは 特に楽しかった 一度 ズブ濡れになって 帰って 川で転んだと言うと叱られたので 次からは 素っ裸で靴だけ履いて 飛び降りることにした 友だちも みんなやっていたので 誰も恥ずかしいと思ってなかった 緑に囲まれた田舎の川だからなぁ 川の石をひっくり返して 川虫を探し それをエサにして 釣りをした いろいろ釣れた キャッチ&リリースが基本だ 時々 ひとりで川を見に行った 沼や池も 谷地の水たまりも 水辺という水辺が大好きだった 水辺には 昆虫や鳥や蛙がいた 水辺には 美しい植物があった 僕が育った町は海から遠かった ここだけの話  僕は 何度か 川に 流されかけた もうダメかもしれない と 思った 一度は 泳いでいて いつの間にか 急流に飲み込まれ 気づいたら流されていた 偶然 近くにいた先生に助けられた 一度は 釣りをしていて深みにハマり 着ていた服が濡れ その重さがさらに 身体を沈めてしまい 恐怖に怯えた 遠くにいる友だちの名前を呼び 助けて と 叫んだ! 彼は 頑張れ〜 と 叫び返し 僕は 頑張って 自力で岸に上がった ずぶ濡れの服を脱ぎ  大きな岩に貼り付け  太陽の光で温められた岩に 僕も寝そべって体を温めた 見知らぬ おじさんが来て 危なかったな と 言った 遠くで 僕が溺れかけたのを見て 走って来てくれたらしい どこの子どもか などと 聞かれなくて ホッとした記憶がある 親にバレたら 大変だ! いつも そんな遊びばかりしていた プールでは スイスイ泳げるけど 川は 深みがあり 流れがあり 泳ぐのは とても 危険なんだ その事は 何度も 先生に 聞かされていたし 秘密の経験により 実感していた それでも川は そばにいるだけで 心が 落ち着く 中学生の頃は 夜 川を見に行った 塾の代わりに  夜 数学の先生の家まで 自転車で 数学を習いに通っていた時期があり 帰り道 河原に下りて  夜の川 を見る時間は  とても 幸せな時間だった こんなに素敵なのに なぜ みんな  夜の川を見に来ないんだろう と 不思議にさえ 思った 夜の川岸で 何度か 狐の嫁入り という 現象を見た 遠い山の上に 道も何もない 山の上に ぼんやりとした丸い明かりが  いくつも いくつも ずらりと 並んで見えるのだ 幼い頃 ばあちゃん に あれは 狐の嫁入り だよ と 教えてもらった 狐たちが 提灯を持って並んで 嫁入り行列をしているのだ と そんなことがあるだろうか? と もはや 信じてさえいなかった 中学生になった僕 は  その不思議な現象を目の当たりにして 深く 激しく 感動した かなり 長い時間  その光は消えなかった 後から 誰に話しても 信じてもらえなかった ばあちゃん以外の人には 今 思い出しても 不思議な現象だ 僕は ヌエの声が 大好きだ ひとり 夜の川辺に 佇んで キ———ッ キ———ッ と 鳴くヌエの声に浸っている と 死んでしまった人々 や 妖怪 や 幽霊たち と 心が通い合うような気がして 嬉しくなる 僕は今も信じている 死んでしまった身内のご先祖さまや 目に見えない妖魔や幽霊たちが 背後から僕を守ってくれている と 山で 川で 至るところで 僕が 危機一髪の危険から生還できたのは 目に見えないご先祖さまや守護霊の おかげだと信じている
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