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面接
翌日私は面接を受けていた。
春の日差しが燦々と降りそそぐ大きな窓を背に、逆光気味に面接官が三人。窓の下、地上には隣接する結婚式場の庭園が広がっているため、三階からの眺めは見通しが良く、少し遠くの連立するビル群が春霞の向こうに見えた。面接官と向かい合うように並べられた椅子に学生は四人の集団面接、営業職の募集で四人中私以外は皆男だ。
次年度の就職活動はすでに始まっており、私より先に面談を終えた二人はやはり、来春卒業見込みの三年生だった。
「では次の……山本さん」
「はい。S大学文学部英文学科四年生の山本萌黄です」
S大学、で顔を上げ、さらに四年生、と聞いて、先の三年生二人が目だけを動かし素早く私の方を見る。
あなた達より頭いいはずだけど、どうせ第二新卒枠での応募ですよ、私は心の中で毒づく。ニート認定されたような気がして気が沈んだ。
「背が高いですね」
向かって左側に座った面接官が言った。
「はい」
「何かスポーツでも?」
「いいえ」
「……現住所は、これはおじいさんと二人暮らし?」
今度は中央に座った面接官が履歴書に目を落としながら言った。
「はい」
「親元を離れておじいさんのところに下宿しているということですか?」
「そうです」
「食事とかはどうしてるの? 山本さんがお世話してる?」
「いえ」
「……えと、じゃあおじいさんが?」
「そうです」
「ご自分で?」
「はい、家の中のことはほぼすべて祖父がしてくれます」
「おいくつになるの?」
「八十三歳です」
二人の面接官が「おお」と感嘆してみせた。
「お元気ですね」
「はい」
「……」
学生の緊張をほぐすために雑談めいた前振りを用意してくれたつもりだろうが、会話には弾んだところが全くなく、続ければ続けるほど私はますます底なしの沼か何かへ沈み込んでゆくような気分にさせられた。
面接官二人は顔を合わせ、中央の方が「じゃあ」と促して左側の方が「では」と切り出した。面接官に気を遣わせてどうするのだ、私はさらに気持ちが沈んだ。
「では、簡単な自己PRと弊社への志望動機をお聞かせください」
前の二人が同じことを聞かれていたのに、ここで初めて耳にする質問であるかのように心臓がどきんとする。絶対に避けられない、しかし私が最も苦手とする自己PRと志望動機だ。
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