赤い薔薇の君

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 透也の部屋に着いても、すぐに休めるわけではない。  濡れた服をコインランドリーに持って行き、ギターを乾かす。細々とした日用品を揃えるために、バイト先のコンビニに向かった。 「いらっしゃいませー」  どこか気の抜けた声。いかにも大学デビューしました、と言わんばかりの、あまり似合わないまだらな茶髪が目に入る。バイト仲間の中田だ。彼も透也と同じ大学だったことを思い出した。今一年生だから、透也の一つ下の学年だ。  中田は俺の顔を見ると、どうも、というように軽く頭を下げる。  俺は歯ブラシやコップなど、日用品をいくつか持って、レジに置いた。 「店長いる?」 「ちょうどさっき出て行きました。どうかしたんですか? 」 「うん、まあね。中田君さあ、明日、俺の代わりにシフト入れない? 」 「ええっ、入れなくはないですけど、できれば、まあ」 「俺、今日アパートの部屋が浸水しちゃってさ。明日、荷物とか整理に行かないといけないんだよね」  俺の言葉を聞いて、中田は大きく目を見開いた。 「大変じゃないですか。むしろ、今こんな呑気にしてて大丈夫なんですか? 」  チャラそうな見た目だか、実際は、育ちの良さそうな気の良い奴である。 「夜はあんまり何もできないっぽくてね。それで、申し訳ないんだけど、」 「ああ、大丈夫です、代わりますよ」 「ごめん、ありがとう」 「全然いいですよ。この前テストの時代わってもらったし。それに、南雲さんのシフト、高橋さんと被ってますし」  そっちがメインなんじゃないのか、と思ったが、何も言わずにもう一度礼を言っておく。 「じゃあ、店長に伝えておいて」 「了解しましたー」  間延びした中田の声を聞きながら、外に出る。  風が冷たい。今日は一段と冷える日だ。  川沿いの道を歩く。随分久しぶりに、ここを通った気がした。  初めてここで透也を見た時のことを思い出す。あんな出会いをした人間と、一日とはいえ、同じ部屋で過ごすなんて、誰が予想できただろうか。  玄関に座り込んだ時には、深夜零時近かった。  明日は就活の予定がないことが、不幸中の幸いだ。  洗面所から、透也が顔を出す。 「おかえり。シャワー、適当に使ってくれていいから」  まさか、彼におかえりと言われるとは、夢にも思わなかった。この状況の異常さを再認識する。 「あ、うん、ありがとう」  髪から滴る水が、部屋着らしいスウェットに染みを作る。白い頬が、かすかに赤らんでいた。  やっぱり、何か見てはいけないものを見ているような気分になって、さりげなく目を逸らした。
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