赤い薔薇の君

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 ルームシェアって、何だったっけ。確か、広めの部屋に、仲の良い奴同士で住むみたいな、そういうのじゃなかったっけ?  俺は目だけを動かして、部屋を見回す。広いね、とは言ったが、二人で住むような広さじゃない。まして、俺たちは今日知り合ったばかりなのだ。  もしかして、「ルームシェア」には、俺の知らない意味があるのか?  想定外の出来事ばかりでぐちゃぐちゃの頭の中が、ますますかき回される。それでも、答えは一つだ。 「え、いや、無理でしょ」  なんだか、感じの悪い言い方になったかもしれない。もういい加減に疲れていた。 「まあ、やっぱりそうか。でも、現実問題としてどうするつもりなの」 「とりあえず、大家にもう一回相談してみて、それから考えるよ。心配してくれてありがとう」  透也は何も言わずに頷いて、本棚の上の時計を見た。 「もうこんな時間か。そろそろ寝よう」  時計は一時半を指している。俺がタオルを玄関に置かせてもらっている自分の荷物の上に干しに行こうとするのを、透也が呼び止めた。 「あ、タオル、そこのハンガーに掛けておいて。ここの部屋、乾燥ひどくて」  透也が指さした壁には、配線隠しらしい白い帯があって、そこにいくつかハンガーがかかっている。見ると、さっき透也が使っていたタオルもそこに掛けられていた。  俺は透也の指示通りに、空いていたハンガーにタオルを掛ける。 「そこの布団使ってくれれば良いから」  透也はそう言って、部屋の隅に置かれたマットレスを指さした。どう見ても、透也が普段使っている物だ。俺は部屋を見回したが、それ以外に布団らしき物はない。申し訳程度に付いているクローゼットらしい扉は小さく、とてもそこに布団なんて入りそうにない。 「透也はどこで寝るの」 「まあ適当に。毛布にでもくるまって寝るよ」  やはり別に布団はないようだった。 「いやいや、それは流石に申し訳ないよ。俺は床で寝るよ。ほら、さっき乾いた服の中に、ジャンパーとかあるから、それ着て寝るわ」 「風邪引くよ」 「それは透也も一緒じゃん。大丈夫だって、まだぎりぎり十月なんだし。凍えるような季節じゃないでしょ」  俺たちの遠慮のしあいはもう少し続いたが、結局最後は、俺が床で寝ることになった。 「せめてこれ、使って」  透也はそう言って、クローゼットから出した毛布を俺に手渡した。ありがとうと言って受け取る。  目覚ましをかけて、床に横たわる。服をかき集めた寝床は、まるで何かの動物の巣みたいだった。 「おやすみ」  隣から声がして、電気が消される。おやすみ、と返しながら、誰かにおやすみなんて言って寝るのはいつぶりだろう、と考えた。  ルームシェアっていうのも、悪くない考えかもしれない、と一瞬思ったのは、気のせいだったことにしておこう。  俺は目を閉じて、身を縮めて毛布にくるまった。
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