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ゆっくりと目を開けて、頭上に置いたスマホを静かに見る。もう二時間くらい経ったような気がしていたが、まだ三十分ほどしか経っていない。
俺はできるだけ音を立てないように手をこすり合わせた。
全く眠れる気がしない。
知らない部屋だからというわけではない。そういう点には無頓着な質だ。枕が変わったら眠れないなんて感覚は全く理解できない。
眠れない理由は分かっている。
寒い。
とにかく寒い。何でこんなに寒いのだろう。
コンビニに出かけたとき、今日は特別寒いと感じたことを今になって思い出した。
毛布は確かに暖かいが、床から寒さが上がってくる。俺が持ってきた服は秋物ばかりだから、寒さを防ぐには力不足だ。
頼みのジャンパーを床に敷いているが、表面が冷たい。俺自身が暖まれば問題ないのだろうが、こう寒くてはそうもいかない。
俺は壁に付いたエアコンを見上げた。あれをつければ、問題は解決するだろうとは思うが、流石に家主の許可無くスイッチを入れるわけにはいかないだろう。特に透也は乾燥を気にしていたようだし。そもそも、リモコンがどこにあるのか分からない。
かといって、エアコンつけて良いか、なんて用件で起こすのも気が引ける。
しかし、このままでは俺が凍えてしまう。
はてどうしたものか、と思っていると、バイブ音が聞こえた。一瞬自分が鳴らしてしまったかと冷や冷やしたが、振り向くと透也のスマホが光っている。
透也の手が布団から出て、スマホを掴む。
チャンスだ。今しかない。
「あ、あの、透也」
暗闇の中で、透也がこちらを振り返ったのが分かった。
「その、ちょっと思ってたより寒くてさ。それで、」
エアコン、と言いかけた時、透也がもぞもぞと動いて、半分ほど布団をめくり、体を布団の端に寄せた。
そのまま立ち上がるかと思ったが、そんな素振りはない。
寝たらすぐに起き上がれないタイプなのかもしれない。
しばし待ってみることにする。
「早くしてくれ。こっちが寒い」
透也が目を細めて、俺に呼びかけた。
そう言われても、と言いかけたところで、俺は透也の意図に気付いた。
いやいやでも、そんなわけは。
急に心臓が騒がしくなる。
おそるおそる透也の顔を見る。明らかに不機嫌そうだ。
寒さと疲れで、まともに頭が働かない。ああもう、どうにでもなれ。
俺は毛布を脱いで、透也の隣にゆっくりと横たわった。蹴り出されたりはしない。
当然のように透也が俺に布団を掛けて、背を向ける。
ああ人の家の布団の匂いだな、とか、やっぱり布団は暖かいな、とか、なんなんだこの状況、とか、男同士なんだから問題ないだろ、とか、もうとにかく色々な考えで、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
動悸が透也に伝わらないことを祈りながら、俺はしっかりと目を閉じた。
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